タスマニア

葛城事件のタスマニアのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
3.5
2021年132本目。

「親ガチャ」という言葉が登場して、その言葉を盾にして努力を放棄する怠惰を批判するような意見も出てきている。
ただ、確かに「親ガチャ」という言葉に相当する概念や境遇は存在する。
そんなことを改めて感じた映画。

自分の境遇や不幸が生ぬるく感じるぐらいの地獄がそこにはあった。
気まずさや居た堪れなさが作り出す地獄の空気が素晴らしい。
保の奥さんの立場に立つと、「結婚は相手の家族とも結婚することである」という教訓が頭に浮かんだ。
あの中華料理店での一連の流れなんて芸術的だ。
「この人と私は家族になってしまったんだ」という、保のその先にいる親父の振る舞いにただただ後悔を感じる。
ただ、保を責めることはできない。それが余計に悲しい。

"申し訳ない" という走り書きの遺書に彼の人柄が現れていて辛かったな。
葬式のシーンなんて地獄のオンパレード。
とにかく、この映画では "心が壊れちゃう" イベントが多すぎる。

しかし、この保を新井浩文が演じているのは若干複雑な心境が笑
保としての振る舞いや空気感の出し方は演技として、称賛に値すると思ったけど、実際の人がなぁ。。。

あと、地味に保の営業の上司のお説教の嫌悪感すごいと思った。
微妙に喋り方とかが聞き取りづらいし、昭和的な精神論バリバリで、それこそ清の考え方を投影されたような、嫌らしく、かつ、素晴らしいシーンだった。

ただ、そんなこの映画の劇中で異常さが際立っていたのが星野順子だった。
凶悪殺人犯を愛した女として入口から異常な存在である。
ただ、この映画のモデルになった「附属池田小事件」の宅間守も獄中結婚をしていたらしいので、すごくリアルな存在だったんだろう。
海外のシリアルキラーのテッド・バンディも獄中結婚をしていたのもあり、あまり認めたくないけど、非道の限りを尽くした人間に一種のカリスマ性や魅力を感じてしまう人間もいるのだろう。
「凶悪な連続殺人犯でも結婚できるんだぜ。」って言われているみたいで、すごーーく嫌な気持ちにはなるけど。

そして、この星野順子を演じるにあたって、田中麗奈ハマっていた。
なんだか分からないけど、ピッタリという感じ。
稔に可能性を見出そうとして、「死刑」の制度に対する自分の想いを早口で語る時の盲信的な所作や振る舞いが憑依的だった。
そして、最後の痛烈なパンチ含めて。。。

とりあえず、「親ガチャ」「環境ガチャ」は必ず存在すると思う。
自分の現状を顧みたときに、どこまでを他責に置き、どこまでを自責に置くべきかは、いつだって本人が決めること。
その行動の選択は必ず因果応報として本人に降りかかるのだから。
ただ、努力したり、もがいてみたり、物事を自責に捉えるための人間としての素地や地盤そのものを環境によってグチャグチャにされることだってある。そんな風に感じたな。
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