カテリーナ

葛城事件のカテリーナのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
4.4
待望の赤堀作品

前作『その夜の侍』は確実に私の脳裏に爪痕を残した赤堀監督の作品だった
今作は都合で劇場での鑑賞が叶わず レンタルが始まる前日に待ちきれず寄ってみると何故か棚には
葛城事件が並んでいた 早速レンタルし
鑑賞結果 周りの評判どおりの
恐ろしいまでの秀作
『その夜の侍』を確実に超えていた

この予告編がまた、秀逸で無差別殺人 リストラ 加害者家族 ドメスティックバイオレンス 獄中結婚 など次々と叩きつけるような白い文字が目に飛び込んでくる それらを描いているのは明らかだ 暗いテーマだらけのこの救いの無い作品の核は家族という地獄 この
大きな白い文字が黒いスクリーンから
禍々しい音と共にこちら側に迫ってくる
この映画は家族の家長たる父親の呪縛から
妻、長男、次男が逃れる為に苦しみもがく姿とその成れの果てを描いた全く救いの無い映画だった
その意味で『その夜の侍』の堺雅人が
苦しみもがいた先に微かな希望を見出した
再生の映画に対し今作は破壊 しかなかった

父親の代から継いだ金物屋の店主の
葛城清という男
祝い事がある度に訪れる中華料理レストランの個室
この男がウェイターに対するクレームの言動でどんな男なのかわかる
決して大声では喚かないがネチネチと
クドクドと遠回しにこの店にとって自分は顧客、それも長年に渡る最上の顧客である
ことを 長男の嫁とその家族の前で主張したいのだ そもそもの原因は麻婆豆腐が辛いというだけの事なのに

「お前だと話しにならないからオーナーを呼んでこい 葛城 と言えばすぐわかるから」
「長男と嫁の祝いの席なんだ 俺はいつも
祝う時はこの店を使っているのだ」

私は職業上沢山の人と言葉を交わす
人数が多ければ多いほど 色々な性格の方々を知る 葛城清という映画の中で三浦友和が演じ私が感じた人物像がある それは
自分を誇張したがる
頑固
理路整然と舌が滑らかで大いに語る
自分の意見を正当化する 国家というワードをよく使う
反論は一切受け付けない
キレると暴力を振るう
など であるが彼のような性格の親戚がいたらさぞ辟易するだろう
中華レストランのウェイターが被害に遭ったように
鬼の首を取ったように 大義名分を与えて、しまったら最後
相手の精神的なダメージは相当なものだ
そんな葛城清を見事に演出した赤堀監督は
やはり並みではなかった しかし三浦友和という俳優のキャスティングについては失敗だったと個人的に思う
三浦友和という人間性の芯の品の良さを
演技で隠せなかった
わたしの経験上この男の人物像だと下品でもっと声が粘着質で汚いと思ったが
十分に近寄りたく無い醜い歪んだ中年男を演じ
この作品をただの鬱映画でなく
秀作に押し上げたのは三浦友和の
演技力ありきなのは間違いないのだ
その妻を受け身で演じた南果歩の
無能さと無力さ
特にお通夜の席で 些末な話しを
嬉々として語る場面で周りの沈んだ空気の中
甲高く気が触れたような笑い声を上げる
その時の無邪気さと正気のギリギリのところを演じて見せた
自分の人生を抑圧されて自分を殺して生きるしかなかったそして家族という地獄から
逃れる唯一の方法の選択の悲しさと無力さ

無差別殺人を犯し死刑を判決を受けた次男
に獄中結婚を迫る死刑廃止運動に没頭する
女を田中麗奈が演じる
まるで加害者家族の寄生虫のように
葛城清に張り付く
彼女の真意が透けて見えて唾を吐きたくなる
「自分のような人間がそばにいれば
絶対に心を開いてくれる」

なんの根拠もなしにそう、豪語する
あなたとわかり合いたい
あなたと一分一秒でも話をしたい
あなたと結婚したいと
安全なガラスの向こう側から言葉を発するだけで相手の心を開けると思っている
まるで茶番である
彼女のような自己陶酔型は最も始末に悪い
獄中結婚の為に家族まで捨てそれに対する非難や世間からの冷たい仕打ちも全て信念という言葉の前に消えていくからだ
逆にそれすらも力に変えてしまい根拠の無い自信は肥大するばかり
ロジカルで少し一般的な女性からズレている歪さが
彼女の凜とし佇まいからは醸し出せなかったのが残念

最後にお気に入りの新井浩文はもっと猟奇的な殺人犯を演じて欲しい かつて韓国映画の『チェイサー』の
犯人役を自分ならもっと怖く演じられると
本人が語ったように それが実現される日を
待っている 勿論本作の静かに壊れて行く長男も良かったけどね
カテリーナ

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