KouheiNakamura

海賊とよばれた男のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

海賊とよばれた男(2016年製作の映画)
1.0
海賊とよばれたい男。


「永遠の0」の百田尚樹の原作小説を同じく「永遠の0」の山崎貴監督が映画化。出光佐三をモデルにした主人公国岡鐵三役を岡田准一が演じる。


はじめに言っておきます。僕はこの映画が大嫌いです。大ッ嫌いです。この映画及び原作小説が好きな方はこの感想は読まないことをオススメします。ちなみに原作小説は未読。

えー…とりあえず鑑賞中の僕の心の声を簡単に。
序盤(開始30分ぐらい)→おお、思ったよりも楽しいかも!映像も綺麗だし!
中盤→…ん?なんかコントみたいになってきたぞ?
ある場面の字幕を見て→ハァァア?!なんでそこを省略するの?!意味がわからない…!
後半→早く終わらないかな…いや、終わってください。
ラスト→き、気持ち悪い…!!
エンドロールに入った瞬間、ダッシュで劇場を出ました。久しぶりに鳥肌立ちまくりな作品でしたよ。(悪い意味で)

この作品、岡田准一くんが一人で主人公・国岡鐵三の20代から60代、さらに90代まで演じていることが話題になっています。もちろんそのままの顔で演じるのは不可能なので、特殊メイクを駆使して。この特殊メイク自体は良く出来ています。シワの質感なんて見事なもんです。岡田くんも精一杯低い声を出して、頑張って60歳になりきろうとしています。…でも、ごめんなさい。やっぱりどう頑張っても60代には見えません。声も雰囲気も立ち振る舞いも、軽すぎるし若い。國村隼さんと同年代で対等な関係には到底見えません。これは岡田くんのせいではなく、キャスティング及び監督の演出力の問題でしょう。
さらに問題なのは、先ほど20代から60代を演じる…と書きましたが、厳密に言うと27歳・32歳・60代そして96歳です。
…お分かりでしょうか?そう、国岡鐵三の40代・50代の姿は全く描かれないんです。しかもその時代は国岡商店が最も栄えた時代らしいんですよ。でもそこは描かれない。「その後、国岡商店は大陸にまで足を伸ばし発展を遂げた。」なんてそっけない字幕が出るだけ。国岡鐵三という男の成り上がり物語として最もカタルシスが生まれるであろう場面は全カットです。意味がわかりません。

この映画は60代の国岡鐵三の場面と20代の国岡鐵三の場面を交錯させながら進んでいく、という物語構成になっています。これは大失敗だったのではないでしょうか。物語がストレートに進まないので気持ちが盛り上がり辛く、なんとなく感動”げ”なエピソードが羅列されるだけ。なんとも不細工な映画だと思いました。


…と、ここまでならまあちょっと出来の悪いだけの映画です。取り立てて騒ぐようなこともない、凡作で終わっていたでしょう。
しかし、僕は映画を観ていくうちに段々と居心地が悪くなっていきました。それは何故か?

この映画、ことあるごとに主人公側(国岡商店)を賛美するんです。何か困難にぶつかる→国岡鐵三及びその部下たちが無理やり気合いを出したり怒鳴ったりする→上手くいく、この繰り返しなんですよ。彼らの感情が盛り上がる度にうるさ過ぎる音楽(やたらと似たような旋律)を繰り返し流し、国岡商店の社歌(劇中4回も出てくる!)を登場人物たちが熱唱すればどんな問題も全て解決。社員たちの表情もニッコニコです。どんなに無茶苦茶な国岡鐵三の要求にも笑顔で応える社員たち…。しかも論理的な解決法は誰一人として提示しない。基本的に事件の解決法は精神論ばかり。
あのぅ…これって本当に良い話ですか?僕にはブラック企業の社長に無理やり働かされてる社員たちにしか見えないんですが。国岡鐵三さんは神様かなにかですか?怪しい新興宗教みたいで、心底気持ち悪かったです。
また彼らに敵対する石油メジャーの外国人たちの描き方が酷い。監督は「みなさん悪役なので感じ悪い表情してくださいね〜」とでも演出したんでしょうか?それぐらい記号的で人間味のない悪役でした。

つまり、この映画が言いたいのはこういうことですよ。国岡商店は正義!国岡鐵三は神!石油メジャーは敵!
…小学生が書いた脚本ですか?

そして僕が何よりも激怒したのは、登場人物たちが何か無理難題に直面する度に口にする「戦時中に比べれば〜」「戦争の時は〜」
戦争を免罪符にして観客を泣かせようとする、心底下劣なセリフだと思います。

他にも歳をとらない染谷将太やあまりにもステレオタイプな良妻の綾瀬はるか、戦地から帰ってきたのに汚れてもいないし怪我もしてない兵士たち等不満点はありますが、けなしてばかりではアレなので良かった点をいくつか。
前述した通り、撮影は素晴らしかったと思います。映画らしい、堂々たる絵作りで安っぽさは全く感じませんでした。空襲場面や日承丸のCGも迫力がありました。役者陣も少々オーバーアクト気味でしたが、概ね好演。國村隼さん、ピエール瀧さん、小林薫さんらの渋い演技が良かったです。岡田くんも20代の溌剌とした国岡鐵三は良かったと思います。すぐに怒鳴るのは嫌でしたが…。

本当はことさら貶すべき作品ではないのかもしれません。力の入った作品だとは思います。でも僕はやはりこの映画の根底にある精神性が全く受け付けませんでした。美談を演出する時にやたらと扇情的なBGMを流して「ほらほら良い話でしょ〜」とやる下品な演出。(そもそもこの映画の登場人物たちは法や決まり事を無視しているので美談ではありませんし。)特定の人物をむやみやたらに持ち上げる気持ち悪い脚本。そして、戦争をダシに使うような最低な台詞…。結局この映画の製作者たちはこれを観て「いやーこんなに凄い日本人がいたんだなあ…」と思ってほしいのでしょうが、こんなに一方的に賛美されても引くだけです。僕には到底受け入れられるものではありませんでした。
2016年の映画の中でダントツのワーストです。オススメしません。
KouheiNakamura

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