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トマホーク ガンマンvs食人族のrayconteのレビュー・感想・評価

5.0
「ブルータル ジャスティス」はあまりにも素晴らしかったが、しかしこの監督の存在を知らなかった。
クレイグザラー?誰だそれ??

ということで後追いで観た「トマホーク」だったが…
なんだこれ!
やっぱこの監督ヤバすぎるよ!!

19世紀アメリカ西部。
冒頭から漂うクリーピーな空気。
山中に作られた魔法陣のような形状の墓と、そこにあつらえられた人骨。
もうヤベー、こいつら絶対話通じねえ。
ふもとの小さな街の保安官らも、やつらには触れないようにしている。
しかし、とばっちりで食人族どもにさらわれてしまった街医者の女性を救うため、保安官らはやつらの本拠地へ向かう。

奪還劇は西部劇で定番の形だが、ともかくこの食人族がマジで怖い。
ホラーの脅かしやスリラーのドキドキみたいな擬似的恐怖と違った、ホンモノの怖さ。
絶対あんな風にだけは死にたくないというシチュエーションをあらん限り振る舞い、対話や交渉の余地など一切ない真の蛮族を目の当たりにしては、普段戦争反対の紳士淑女諸君も「殺せ」と声を揃えるだろう。
しかし、ここにきて映画の冒頭シーンが効いてくる。
ことの発端は食人族の墓を荒らしたことだ。
そもそも食人族は元からその地に住んでいたわけで、彼らにとっては開拓民こそが侵入者であり蛮族なのだ。
私たちにとって異様な文化を持っていようと、食人族を蛮族とみなすのは文明の押し付けなのではないか。
そう考えると、この映画はネイティブアメリカンを押しのけて土地を我が物にしてきたアメリカという国と、ひいては「戦争」が持つ本質的な歪みが描かれたものに感じた。

また、ザラー監督の演出は特異で斬新だ。
映画の中盤まで男たちがひたすら荒野を歩き続け、物語は動かない。
定石的には前半にも小さな山場を作るところを、弱い火で炙り出すかのようにジリジリと進めてゆく。
だからこそ、終盤の展開はより大きなカタルシスを爆発させる。
度胸とセンスの試される挑戦的な演出だが、ザラー監督はこれを見事に結実させている。

「ガンマンvs食人族」というB級な邦題からは想像しがたい、アートホラームービー。
この嬉しい裏切りを是非体験してみてほしい。
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