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ライトハウスのrayconteのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
5.0
孤島に閉じ込められた灯台守ふたり。
幻想と現実が狂気を混じえて観るものを翻弄するダークファンタジー映画だ。

「The Witch」のごとくロバートエガース監督の細部に渡る演出の徹底ぶりが見える。
娯楽映画を期待していた人は本作に困惑するだろうが、これはいわばエガースのオートクチュール。
何が正解なのかを考察するよりも、画面や音響の細部に注目し、この映画という体験そのものを楽しむ姿勢で観れば十分に満足できるだろう。
つまり、観た人が抱いたものがそのままその人にとっての「回答」となる作品だ。
エガースがいかに多くのゴシックホラーや伝奇文学などをオマージュ/モチーフとしているかは公式サイトに詳しく記載されているので、映画と併せて読んでみてほしい。

野暮な考察は省くとして、僕の抱いた所感としては、なんて「過酷な映画」だということ。
始終吹き荒ぶ激しい雨嵐、泥とクソにまみれて酒に溺れ、怒って笑って踊って殺しあって、腐臭と不潔と冷たい水から逃れられない隔離空間。
画面に映るパティンソンとデフォーの疲弊と狂気は演技の領域を超えており、撮影スタッフもよく最後まで仕事を全うしたものだ。
役者やスタッフに過酷な労働を強いてもなお妥協しない、黒澤明型のクラシック・ワーカホリックぶり。
モダンで先鋭的な作家として知られるエガースはガテン系のド根性も持ち合わせ、この妙なバランスはしかし、幻想的なテーマにリアリティを与える重要なファクターになっている。
ファンタジーこそリアリティを追求しなければ、それこそ単なる絵空事になってしまうからだ。
エガースの作品に血肉のようなものが宿っている所以を、この映画でようやく理解できた気がした。

最後に、この映画から得たミニマムな教訓を述べるなら、「上司がイヤな会社は気が狂う前に辞めよう」だ。
現実にもいるでしょう、灯台の鍵をいつまでも渡そうとしないクソ野郎がさ。
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