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リトル・シングスのrayconteのレビュー・感想・評価

リトル・シングス(2021年製作の映画)
5.0
多くの人が評価に悩む作品だろう。
ただ、悪評をしている人たちの意見は「思っていたのと違う」という点で一貫している。
猟奇殺人が起き、犯人とのスリルある駆け引きや意外な展開を経て、事件が解決する。そういう本格ミステリーを期待していた人たちには確かに残念な作品だろう。
だがそれは先入観がもたらす失望であって、元は固定観念からの勘違いだ。
そして、その失望はこの作品そのものが低質であるかどうかとは全く別の話である。

名優デンゼルワシントン、ライジングスターのラミマレック、そしてどんな役にも憑依する怪優ジャレッドレト。
興味をそそられる配役だが、しかし序盤から強烈な既視感がある。
黒人のベテランと白人の若手刑事コンビ、トリッキーな容疑者という配置は、あまりにも「セブン」と似ている。
キャラクターの細部まで類似点が多すぎ、中盤までの物語の流れもほぼ同一であるほか、「被害者が6人で犯人が7人目になる」という点や、車で犯人と荒野へ出掛けるという部分まで一致している。
ここまで酷似している点から、セブンを下敷きに作られたことは間違いないだろう。
確かに、この俳優陣を集めてセブンの焼き直しをするというのは少し残念な気もする。

だがこの作品にはある点で独自性があり、むしろそちらが大事な本題だ。
作品のタイトル「リトルシングス」にある通り、この作品のテーマは「些細なことが未来を作る」ということ。
マレック演じるバクスター刑事が容疑者の確たる証拠を掴む前に犯人を殺害してしまい精神的に追い込まれてしまうと、ワシントン演じるディーコンは被害者の持ち物と同じ髪飾りを用意し、それが容疑者の部屋から見つかったものであることを示唆する形でバクスターに送る。
いずれはバクスター自身も気づいてはしまうのだろうが、ディーコンのその些細な気遣いはバクスターの精神をわずかでも救うのだろう。そしてその些細な救いは、バクスターの未来を大きく左右することになるはずだ。
例えるなら、小石を線路から取り除いた程度のことが、やがて線路を通る列車が大事故を起こすこと防ぐみたいに。
ではディーコンはなぜ線路に列車が通ることを想像できたのか?
彼は「過去が未来を作る」ことを身を以て経験してきたからだ。

通常、視聴者というのは殺人を捜査する人間のことなど考えもしない。
コロンボもポアロもみな強靭で、凄惨な事件現場や写真を連日目にしても精神的な安定を保ち揺るぎない正義を下す。
だが、そうではない人間についてはあまり描かれてこなかった。
事件解決の陰には、ひたすら徒労だけの捜査と残虐な事件写真と向き合う毎日を送り、ただ疲弊するだけの刑事たちが多くいるはずだ。
その光の当たらない存在にスポットを当てたという点において、この作品は稀有で斬新なものだといえるだろう。

時々、大事なことは、本当に些細なことであったりするのだ。
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