KouheiNakamura

何者のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

何者(2016年製作の映画)
5.0
踊り場の窓から、人波を眺めていた。


「桐島、部活やめるってよ」で一躍名を馳せた朝井リョウの小説を、演劇界の鬼才三浦大輔監督が映画化。佐藤健、菅田将暉、有村架純、岡田将生、二階堂ふみ、山田孝之ら若手実力派キャスト勢ぞろいで就活やSNSを巡る人間模様を描く−。

はじめに言っておきます。今回のレビューは僕個人の主観及び自分語りが中心のものになります。何故なら、この映画は観る人の人生観や生き方が浮き彫りになる映画だからです。また、個人的に今まさに僕の周辺の事情とこの映画で描かれるものがあまりにも重なることもその一因です。痛々しい自分語りが苦手な方はスルー推奨です。

さて。僕は高校生の時から演劇をしています。大学生になってからはより芝居好きが加速し、今では芸能事務所に所属しながら細々と俳優として活動しています。そんな僕にとって、就活はまったく縁のないものでした。正確に言うと簡単な企業の説明会と合同説明会に行ったぐらいで、それ以外は就職活動と呼べるものはほとんどしてきませんでした。なんとなく、自分は俳優としてやっていけるのではないかと漠然と考えていたのです。今になって思うと、浅はかな考えだったと思います。もっとしっかりと自分を見つめ直しもがき苦しめば良かったのではないか?学生の内に、やれることをやっておくべきだったのでは?…今となってはもう取り返せない時間です。

この映画に出てくる5人の若者は、それぞれのスタンスで就職活動に挑みます。主人公の拓人は演劇を諦め、得意の分析を活かした就職活動を。親の都合で、堅実な職種を希望せざるを得ない瑞月。就活について詳しくないと嘯きながらも、ある理由で希望職種ははっきりしている光太郎。肩書きを重視し積極的に行動する、いわゆる“意識高い系”の理香。周りに流されたくないという理由から、就活からは距離を置く隆良。
彼ら5人の本音と建て前がSNSを通して見え隠れする、というのが本作の肝です。
この中だと、僕は隆良や拓人の気持ちがよくわかります。特に、拓人はまるで演劇を諦めた場合の自分の姿を見ているようで胸が苦しくなりました。
映画は、全体的に意外なほどにゆっくりしたテンポで進んでいきます。しかしこれはあくまでも丁寧に彼らの心情を描くため。宣伝ではどんでん返しがあることを売りにしていますが、僕はそこはこの映画の主題ではないと思います。では、この映画の主題とは何か?

この映画の主題はタイトルに全て表れています。つまり、僕らは何者なのか?という問い。この映画の登場人物たちは就職活動を通して、その問いかけに答えていくのです。その中でも一番不器用だった拓人がたどり着く答え…。そのことを雄弁に物語るラストシーン。僕は激しく心を揺さぶられました。一見するとラストは拓人を突き放しているようにも見えますが、僕には作り手の方々からの強いエールだと感じました。

監督ご自身が演劇をやっていたこともあり、劇中に出てくる劇団の公演の場面もリアリティ抜群。ああいう劇団、ゴロゴロあります。また、烏丸ギンジみたいな演劇人もよくいます。(笑)演劇はやはり傍目から見ると痛々しいのですが、だからこそ僕は演劇が好きなのだと改めて感じました。

また、キャストの皆さんも素晴らしい演技でした。特に佐藤健さんの、何者にもなれていない人間の存在感の無さの表現には感心しました。


最後になりますが、実は僕は今就職活動を始めています。それも、僕が自分と向き合った結果の行動です。卒業してからの数年間は戻ってはきませんが、自分なりにどれだけみっともなくてももがいてみようと思っています。自分は何者なのか?その答えを知るために。
KouheiNakamura

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