KouheiNakamura

レッドタートル ある島の物語のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

5.0
僕たちはどこからも来ていないし、どこへも行かない。


スタジオジブリが10年も前から目をかけていたマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の長編アニメーション映画。配給にスタジオジブリが入ってはいるが、いわゆるジブリ映画っぽさはほぼ無し。宮崎駿監督でも高畑勲監督でもないから当たり前だが。

今年の映画は全体的に好調で、アニメーション映画も傑作揃い。しかし、個人的にはこの「レッド・タートル」に一番心惹かれてしまった。君の名はより、ズートピアより。

ストーリーはいたってシンプル。無人島に漂着した男が不思議な赤亀と出会い、様々な事象を体験する様を描く。全編、台詞らしい台詞はなし。叫んだり、呼びかけたりする程度。よって鑑賞中はひたすら画面に集中できる。
映像は美しく、どこか幻想的ですらある。キャラクターの表情は記号的で無機質。その分、ほんの小さな表情の変化や動きに心がざわめく。音楽もまた極上。

…そして何よりも僕がこの映画を好きな理由は、観終わった直後に感想がすぐ言葉にできなかったことだ。鑑賞中は色々なことを考えていたはずなのに、終わって見れば映像から受けたものを言語化できない。僕はこれこそが芸術の真価だと思っている。表現はシンプルだが余白を残し、こちら側に考える余地を与えてくれる。


気がつけばエンドロールで僕は泣いていた。何故かは未だに分からない。こういう体験がしたいから、僕は今日も劇場に足を運ぶのかもしれない。

100人が観たら100通りの感想が出そうな作品ですが、大傑作だと思います。オススメです。
KouheiNakamura

KouheiNakamura