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神様メールのshihoのレビュー・感想・評価

神様メール(2015年製作の映画)
4.3
"孤独な微睡(まどろ)みの中で、光に照らされる。"

一夜の夢の様にふわふわして朧げだけれど、
観た後には確かに自分の心が少し解放されたような、
素晴らしい幸せに触れたような感覚が残りました。


本作では世界を作りし神様はブリュッセルの暗いアパートに住んでいる性悪オヤジで、神用のパソコン(旧式のボックス型のやつ)で日々人間に嫌がらせをする事だけが楽しみのクソ野郎です。
「バスタブに身を沈めた途端、電話が鳴る」とかそんな世の中の不都合は全部この神が作っています。
女神様である妻は神に怒鳴られオドオドするばかりで、刺繍と野球だけが楽しみ。
兄のJC(イエスキリスト)は既に人間界に降りて磔にされています。

そんな父親に嫌気がさした娘・エアちゃんは家出を決意。
進入禁止の父親の書斎に忍び込み、人間達へ残りの寿命を一斉送信した後小さな像として置かれている兄(JC)の助言の元、兄の12人の使徒に加えて6人の使徒を探し、『新・新約聖書』を作るべく下界へ降り立ちます。
(ちなみにこのアパートには玄関なく、神一家は閉じこもりっぱなしです。人間界への出口はドラム式洗濯機をある設定にすると、中がトンネルになるというとても原始的な仕様。たどり着く先はコインランドリーです笑)

エアは人の胸に耳をかざすことで、その人の『音楽』を聴くことが出来ます。
「あなたはヘンデルよ」とか言われるわけですね。
いいな私のも教えてほしい。

6人の使徒にもそれぞれ決まった音楽(実在するクラシックの曲です)があって、彼らを順に勧誘しながらそれぞれの音楽をBGMにそれぞれの人生を『福音書』と名付けて辿っていくのが、洒落ていて素敵でした。
特にカミーユ・サン=サーンスの「動物の謝肉祭〜水族館」は大好きなので嬉しかった!

この6人の使徒達は、皆一様に孤独なんですね。
この映画、パッケージやあらすじを見ると明るいブラックコメディドラマみたいに見えるんですけど、実際笑えるシーンも多いけど、冒頭のブリュッセルのアパートから始まり画面はとても暗いんです。
エアに会うまでの使徒達の人生は常に日陰でどんよりとしています。独身のサラリーマンの日常が一番キツかった…。
人間界全部なんですけど、寿命の通知があった事で彼らにも変化があり、エアと出逢うことで解放されるんです。
エアが見せてくれる素敵な夢、
テーブルの上で踊る左手と、
テーブルの上で魚が歌う「la mer(海)」のシーン、
(何言ってんだかわからないと思いますが笑)
すごく素敵で幸せなような、切ないような、不思議な気持ちになりました。
この暗いシーンも幸せなシーンも、撮り方や音楽がマッチしていて不思議な世界観を作り上げていて素晴らしかったです。

エアはまだ子供世間知らずなので、使徒達にする質問と使徒達の答えもなんだか哲学的でした。

例えば孤独なサラリーマンは、寿命メールが来た瞬間にビジネスバックを公園のゴミ箱に叩き込み、もう死ぬまでそこから一歩も動かないことを決意してベンチにずっといるんです。
彼の元には鳥さんが「ごはんちょーだい」みたいに寄ってくるんだけど、その鳥さんの言葉をエアが通訳してくれます。
「あなたが好きだって」って。
更に男性が
「飛べるのに 何故公園から出ない?」と聞くと鳥さんの応えは、
「あなたこそ 何故?」って。
そこで彼は目覚めて鳥さんに導かれ旅に出るのです。
なんだか私もハッとしました。

ちなみに父親である神も、エアがパソコンをフリーズさせて家出でしたためパソコンがなければ何も出来ず、彼女を追って人間界に降りますが、下りてしまえばただの口が悪くて頭のおかしい(自分は神だとか言ってるしね笑)汚いホームレスな上、自分が作り出した法則の犠牲となり散々な目に合います(*´∀`*)自業自得です。

女神だけが残されたブリュッセルのアパートでは、エアが使徒を増やす度に壁に描かれた「最後の晩餐」の絵に使徒が増えていき笑、
母の好きな野球が出来る18人になった時、奇跡が起こります。
この奇跡のシーンも面白かったです♪

夜中にヘッドホンつけて観て感動して、でも次の日目が覚めるといつもと変わらず寿命は送信されてこないし私は会社に行くしで、
なんだか不思議な夢を見たみたいな後味になるんですけど、

神様はクソ野郎かもしれないと思ったら、この世がイヤになっても寿命メールを受けた人たちみたいにちょっと自由になれる気がします。
女神のようにビルの壁や海底を歩けるかもしれない。
この世の決まりや柵なんてそんな取るに足らない事かもしれない。

孤独だった使徒が幸せになるのを見たら、
あぁこの世界はクソかもしれないけど、なんて素晴らしいんだろう
って思えたし、
自分以外の他者との心の触れ合いはなんて素晴らしい事なんだろう

そして音楽って素晴らしい!!

って感覚に浸れる作品でした。

キリスト教的にこれ大丈夫なん?wとは思ったけど、
独特の世界観のユーモアとシュールさとブラックジョークの配合、
美しい音楽とフランス語で出来た今作、私はとても好きでした。

好みは分かれると思いますが、ぜひどうぞ!
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