あんがすざろっく

映画 聲の形のあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

映画 聲の形(2016年製作の映画)
4.8
ここしばらく、アニメ映画の鑑賞数が増えています。
たまたまなのか、アニメを欲している自分がいるのか。

今回鑑賞した「映画 聲の形」は、京都アニメーションの作品です。
僕は京都アニメーションの作品は初めて見ましたし、この作品を知るまでは、名前も聞いたことがありませんでした。



小学生の石田将也のクラスに、西宮硝子が転校してくる。
彼女は生まれつきの聴覚障害で、人と話す時は筆談ノートを使い、常に補聴器をつけていた。
将也を始め、クラスの数人が硝子をいじめたり嫌がらせを繰り返し、補聴器を投げ捨てたり、筆談ノートを池に捨てる。

やがて硝子の一件が学級会で問題になり、全てのいじめの張本人は将也に被せられ、これを機に将也はクラスから孤立、いじめの対象になってしまう。
硝子は再び転校、将也は高校生になるも、小学校でのいじめ以来、他人とコミュニケーションを取れないことから周りと馴染めず、生きる意味すらも見つけられずにいた。
将也は飛び降り自殺を試みるも、勇気が出ずにそれも叶わない。
そんな折、将也は地域の手話サークルで、硝子と再会する…。

見終わった後、書きたいことがどんどん溢れてきました。
スタッフの志も、作品の目標値も、とても高い作品です。

どのキャラクターの配置も、ちゃんと考えられていると思いました。

まず、主人公の将也。
小学生時代はガキ大将で、常に面白いことを探して過ごしていました。
そこにやってきた転校生。
好奇心から、硝子が気になりますが、思うようにコミュニケーションが取れずに、結果硝子をからかうつもりが、次第にいじめへとエスカレートさせてしまいます。
多分、将也はこの頃から硝子が好きだったのかも知れませんね。
だけど、ガキ大将として周りの目が気になってしまう。
子供って、無邪気だけど、残酷だとも思います。
まだまだ相手のことを思いやれない。
その行為は結局将也自身に返ってきてしまって、
彼の人生に影を落とします。
自業自得とも言えますが、将也はずっと硝子のことが気になっていて、やっぱり話をしたかったんだと思います。

本作のヒロイン、硝子。
可愛い。むちゃくちゃ可愛い。
これはやっぱり、将也は硝子が昔から好きだったんだと思う、うんきっとそうだ。
植野が硝子にきつくあたるのは、その可愛さのせいもあったんじゃないかな。
ごめんなさい、と常に謝ってしまう癖がありますが、これが彼女の性格なのです。
中盤からポニーテールに髪型を変え、一生懸命将也に言葉で話しかけるシーン。
たまらなく好きですね。
将也も鈍感です。
でも、将也も硝子をいじめていたという罪の意識があるから、よもや硝子に好意を寄せられているとは思わなかったでしょう。
キャスト皆さん良かったけど、特に硝子の声を当てた早見沙織さんが、素晴らし過ぎる‼️
本当に、よく研究して、勉強されたと思います。

余談ですが、最近アニメづくめの僕、先月ぐらいまでオンエアしてた「彼女、お借りします」が好きで、この作品に出てくる桜澤墨というキャラに硝子が似てて、そこも良かったかな。


将也の小学生時代の友達、植野と川井、佐原。
植野に関しては、あの性格の子が、どうしても僕は相容れない。
実際、僕の周りにも、ああいう感じの人はいます。
自己を強く持っているから、いつも謝ってばかりの硝子をみると、イライラしてしまう。
ただよく考えると、硝子に対する態度が概ね
一貫していたのは彼女で、硝子を障害者という偏見で見ていなかったのも、彼女だった気がします。
罵るにしても、荒っぽい対応をするにしても、普通の人に対する接し方と変わらなかったし、容赦をしなかった。
また、植野は小学生の頃から将也が気になる存在だったし、だからこそ、将也の好奇心の対象になった硝子にいい感情を持っていなかったんでしょう。
決して植野が硝子や将也に行った行為は許されるものではないけど、自分の気持ちを偽らない姿は、見事な描かれ方をしていたと思います。
ラスト、植野が何気に覚えた手話。
その言葉をわざわざ覚えたのか、というところも植野らしいですね。


川井は、一見優しそうに見えるけど、その優しさも、他の人から自分がどう見られているのかが気になるだけ。
自分には害が及ばないよう、当たり障りのない人付き合いをします。
彼女も、本当に身近にいそうなキャラクターですよね。

いじめられる硝子を一番理解しようとし、積極的に手話を覚えようとしたのが佐原。
やがてそれは周りのクラスメイトから疎まれてしまい、不登校に追い込まれます。
その後、将也達との交流は絶たれますが、将也と硝子が再会した折、硝子の「佐原に会いたい」という望みを叶える形で、将也が二人を引き合わせます。
屈折することなく、その後もしっかりと手話をマスターして、硝子との再会を喜んだ佐原。
彼女の存在は、作品の救いになったと思います。

将也の小学生時代の仲間、島田とのその後の関係性が気になりましたが、原作では描かれているようですね。



将也のお母さん(若い‼︎)と硝子のお母さん、二人の子供との接し方は対照的です。
そして二人とも、親として不完全です。
どちらが正しいのか考えないといけないけど、人間は不完全で当たり前、とも思えてきます。 


硝子の妹、結弦。
外見はまるで少年なので、将也も初めは「硝子の彼氏」という結弦の言葉を信じます。
設定とか調べてみると、勿体ないくらい、奥のあるキャラクターで、もっと掘り下げて欲しかった一人です。
彼女がどうして少年のような外見をしているのか。何故一眼レフで動物の死骸ばかり撮るのか。
原作ではちゃんと描かれているんですね。
その結弦と、祖母の会話のシーンがありますが、僕はこのシーンが大好きでした。


高校に進学した将也、周りの同級生の誰の顔も見れず、下を俯く日々。
あることがきっかけで、将也と初めて仲良くなるのが、クラスメイトの永束。
僕は彼が一番好きなキャラクターでしたね。
ものすごくうざったくて、鬱陶しく感じるんですけど、将也を「ビッグフレンド」と信じて疑わない。
「やーしょー」の身を案じ、大泣きしたり願掛けする姿は鈍臭いんだけど、彼の純粋さが伝わってくるんです。
彼のような親友がいたら、心強いですね。
映画を観た後での二人の会話。
きっと永束は、こんな映画の台詞みたいな会話ができる親友を、ずっと欲しかったんでしょう。

将也と友達になりたい、と仲良くなるのが真柴。
彼は、ちょっとまだどんな人かが分からなかったかな…。

そして、小学校時代の将也達の担任、竹内先生。
彼が全ての負の連鎖を助長していました。
将也にも、植野にも、多分硝子にすら寄り添うことをしなかった。
だけどコトが起これば、本人に責任を負わせる。
それは子供の自主性とか、自己責任とは全く違います。
まだ分からないことだらけの子供と向き合って、子供達を叱ったり、長所を見つけて伸ばしてあげるのが先生です。
徹底的に淡白に、薄情に描かれた竹内先生が、一番腹立たしかった。

いずれにしても、みんな魅力的で(竹内先生は除いて)、だけど誰もが不完全。


主題歌は、aikoさんの「恋をしたのは」。
実は僕、aikoさんが大好きでして。
3rdシングルの「花火」の時からずっと大ファンなんです。
結婚する前はファンクラブに入ってて、ライブにも何回も行ってたんですけど、彼女のライブは本当に毎回楽しい‼️
そして酸欠になる(笑)。
今回テレビ放送だったので、曲を最後まで聴けなかったのがとにかく悔しい😭
先日の無観客ライブ配信も良かったんですが、
3月の時は1曲目に「恋をしたのは」が歌われて、これが鳥肌もの。
もともとaikoさんが原作のファンだったこともあり、その世界観と曲がもうぴったり寄り添ってる。
このレビューも、aikoさん聴きながら打ってるので、作品の世界から全然抜け出せない(笑)。
またライブ行きたいなぁ。


作品の内容が内容なだけに、否定的な意見もあるようです。
普段から2chとか、攻撃的なスレを見るのが好きでないのですが、今回は色々と検索してみました。
ある意味で、本作は被害者と加害者がいて、どちらからの立場の見方もできる作品です。
被害者の経験がある人が見たら、それは「嫌い」となるでしょう。
否定的な意見も納得できます。
でも、それだけリアルで、人の気持ちに刺さる作品だということです。
表面的なことだけを描いていれば、ここまで取り上げられることもありません。
映画に「楽しい」「気持ちいい」という気持ちだけを望めば、両手を挙げてお勧めできない作品とも言えます。


思い出したくもないのですが、ここで僕の経験談を一つ。
映画の主旨からは、少し外れるかも知れないけど。

高校を卒業してから5、6年経ってからでしょうか、高校の同級生から突然連絡がきたのです。
一緒に遊んだり出かけたことはないけど、席が隣になった時に少し話した程度。

その彼からのいきなりの電話。

元気にしてるか?今何してる?なんて、近況を話していたんですが、今度会って遊ぼう、という流れになりました。
何かが歯に挟まったような感覚があったのですが、断る理由もないし、高校時代とは違う自分を見てもらいたい、という承認欲求も相まって、会う約束をしたんです。

当日、彼は職場の先輩を連れてきました。
仕事を辞めて、転職を考えていた僕の話を聞き、仕事の話を持ってきてくれたのです。

でも、何かが引っかかるんです。
空気なのか、場の雰囲気なのか。

喫茶店で、彼の先輩が話し始めました。

「うちで取り扱っている商品を売りませんか。
知り合いを勧誘してくれたら、配当が高額になりますよ」
そんな感じの話。よく覚えてないけど。

流石に世間知らずの僕でも、瞬時に悟りました。

「カモにされてる」。

ネズミ講だかマルチ商法だか知らないけど、コイツは俺を金ヅルにしか思ってない。

途端に僕の気持ちはシャットダウンしました。
こうなると、相手がどんなに手を変え品を変え美味しい話をしてきても、僕は頑として受け付けなくなります。
高校の同級生とやらが
「どう?俺と一緒に儲けない?」
とか言ってたけど、全部上の空で、そいつも結局僕を引きづりこめないと分かって、諦めました。
以来、一度も連絡はよこしてきませんが、この数日後ぐらいから、迷惑メールが激増しましたね。
いや、もしかしたら、万が一ですけど、彼は本気でこの仕事を素晴らしいと思ってて、誘ってくれたのかも知れない。
まぁそれなら普通、自分の親友とか友達からまず誘っていくけどね(笑)。


だけど、ある意味で僕には良い勉強になりました。
何を言いたいかというと、友達を作るにしろ、人付き合いをするにしろ、誰それ構わず仲良くなるな、ってことです。 

小さい頃はいいんです、友達はたくさん作った方がいい。
友達100人作って、富士山の頂上でおにぎり食べるのもいいでしょう。
親が見守ってくれているうちは、あまり付き合わない方がいい子などは、ちゃんと教えてくれるでしょう。

ただ、自分の価値観や、物事の分別を理解し始めたら、やはり友達は選ぶべきです。
相手を見極めて付き合っていくべきだと思います。
価値観は同じでなくてもいい。
自分は持ってない、特別な魅力を持つ人に惹かれることもあるでしょう。
自分を高める為に必要なことですけど、自分に無理をしてもいけません。
 
「身の丈にあった生き方」という言葉が、僕は大好きです。

じゃあ本当の友達って、どうやって分かるの?
う〜ん。
それは理屈じゃない。
前述したことをあれこれ考えなくても、一緒の空間にいて、苦にならない人。
一緒に泣いたり笑ったり、抱えている悩みを一緒になって悩んでくれたり、お互いの価値観をちゃんと理解して、間違ってることは間違ってる、と怒鳴ってくれる人。
皆さん、誰かの顔が思い浮かびませんか。
僕には、何人か思い浮かびます。

それが友達であり、親友だと信じてます。
「ただの知り合い」とは、訳が違う。 
相手も自分と同じ風に思ってくれている。
目には見えないけど、絶対そうだと信じられる。

あぁ、コイツと一緒の時間を過ごせて、俺は幸せだ。
そう思うのに、理屈は要らないじゃない。
永束が言っていたこと、そのままだと思います。


きっと将也達のグループに、植野の考え方や価値観は異質です。
でも、もしかしたら、自己否定の塊のような将也や硝子に、良い影響を与えるのかも知れません。

この作品で描かれるいじめ、障害という深刻なテーマは、見終わった後に、思った程重くはのしかかりません。
それは決して描き足りない訳でも、悪いことでもないんです。

耳の聞こえない硝子と、人とコミュニケーションを取れない将也が、お互いのやり方で歩みよっていく、その過程で出会う友達との繋がりを描いた青春映画であることが前提になっているからです。


本作が公開されたのは、2016年。
この年のマイベストムービーは、「シン・ゴジラ」と「この世界の片隅に」の同率1位だったんですが、本作も劇場で観てたら、同率3本で1位になってましたね…。
思い返すと、凄い年だったんだな。





最後に。
僕が本作を見ようと思ったきっかけは、作品の評価が高かったこと、そして、京都アニメーションの、あの一件です。
長年ずっとファンだった方達からすれば、あのような形で注目されるのは、本当に悔しかったと思います。
僕みたいなのが話すのもおこがましいので、多くは語りません。
でも、どうしてこんなに人気のある製作会社なのかは、よく分かりました。

とても素晴らしい作品です。これはソフトを手元に欲しいですね。
原作、大人買いしようかな。





追記

先日Blu-rayで見返しまして。

以前見たのは、民放局で放送してたもので、これでも充分良い作品だったんですが。
Blu-rayで見て、結構カットされてる場面があることに気付きました‼︎
しかも、そのカットされてる場面が、ものすごく大事なシーンばかり😳
作品の印象も、キャラクターの印象も全然変わってしまって、なんだか初めて見た作品のように新鮮な気持ちになりました。
むちゃくちゃハマってしまって、原作まとめ買いしてしまいました。
楽しい作品ではないですけどね。

民放局だから、カットするのは仕方ないと思いますが、この作品はどの場面もカットしちゃいけないと感じました。
僕そんなにアニメを見てないので、大きいことは言えませんが、今まで見てきたアニメ映画の中では五本指に入るぐらい好きな作品になりました。
あんがすざろっく

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