KouheiNakamura

ジェイソン・ボーンのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

ジェイソン・ボーン(2016年製作の映画)
4.0
極限の道を、一人往く。


アクション映画界に革命をもたらしたボーン・シリーズの新作。マット・デイモン=ジェイソン・ボーンは実に9年ぶりの復活。(途中にレガシーはあったけどあれはまあ…)世界中の男子を早歩きにした伝説の男が戻ってきた…!

思えば2002年のボーン・アイデンティティーから始まったこのシリーズは、非常に特殊な進化を遂げてきた。一作目であるアイデンティティーはいわゆるハリウッド的なハッピーエンドを迎える。記憶をなくした暗殺者ジェイソン・ボーンが、一応の安息を得るという終わりだ。しかし続く二作目スプレマシーからこの映画は変化する。前作のハッピーエンドから一転する、過酷なストーリー展開。監督がダグ・リーマンからポール・グリーングラスに変わったことによる、手持ちカメラの多用。細かいカット割りでリズムを作る、リアルなアクションシーン。1秒たりとも気を抜けない画面の緊迫感。観る側はボーンと同じく極限の戦場に身を置かれることになる。その作風は三作目であるアルティメイタムにも受け継がれ、自らの記憶を取り戻したボーンの姿によって無事にシリーズは完結する。

…そう、完結していた。この映画が出来るまでは。ジェイソン・ボーンは自らの本当の姿を知った。では、そこから先は?ボーンは本当に心の安息を得られたのか?その答えはこの映画の冒頭、ボーンの険しい表情に全て表れている。記憶を取り戻した後も、ボーンは自らの過去に悩み苦しみ続けていた。愛する人はもういない。一度犯した過ちは消えない。奇しくも二作目スプレマシーのエンディングで示されたボーンの罪が、未だに尾を引いていたのだ。
そして、そんな彼の元に届く知らせ。取り戻した記憶は偽物だった…。

正直、この映画を蛇足と言う人もいると思う。続編を作りたいがために無理やりボーンを引っ張り出してきたのだと。しかし、僕はそうは思わない。このシリーズを愛しているグリーングラス監督とマット・デイモンは、ジェイソン・ボーンの物語にケジメをつけたかったのだ。今まで以上にハードなアクション(特にギリシャの場面は圧巻)、成熟した演技・演出を使って今度こそジェイソン・ボーンの旅路に決着をつける。ラストの立ち回りの後にボーンが歩む場所を見ればその覚悟は一目瞭然。
暗闇の中、微かな光を求め彷徨うボーン。反撃の狼煙は上がった。全てを取り戻す覚悟は出来ている。

最後にはお馴染みのエンディングテーマ「EXTREME WAYS」のイントロが高らかに鳴り響く。やはりボーンの歩むべきは極限の道。次回作以降にも期待したい一作だった。
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