ベルサイユ製麺

海は燃えている イタリア最南端の小さな島のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.9
イタリアの小さな島を舞台にした、難民問題を巡るドキュメンタリー。
複雑な要因からなる出来事の任意の部分を切り取り、並べ替え、そこに主観的なメッセージを託すというのが、まあ一般的なドキュメントの作られ方だと思うので、ドキュメント=事実の或る側面、ぐらいに考えるに留めるのが妥当なのでしょうが、今作の様に取り扱う事柄がシンプルであれば、基本的な事実関係を疑う余地は無いでしょう。【難民を生んでしまう社会はまちがっていて】【彼等を助けるという行為は尊い】です。日本人としては耳が痛いメッセージ。

舞台となる島は、たまたま難民たちの流入口辺りに位置しているだけの、なんら特別では無い島です。タイトルからどことなく環境問題も想起されますが、(映画で見る限りは)特にそういった様子も有りません。頻繁に漂着する難民たちのボートと、その救助活動の様子が映画のメインパートになっています。
多くの者が命を落とすボート内の劣悪な環境は見ていて本当に辛いのですが、例えばマニラのスカベンジャーたちのドキュメントなどに比べると、直接的なショックは敢えて抑えられている様に感じます。寧ろ強く心に残るのは、救助隊の方々の平静ぶりで、彼らにとって如何にこの風景が日常的であるのかを窺わせ、この問題の終わりの見えなさが胸に深く迫ります。
この映画では難民たちを巡る場面と並行して、島の少年の日常の映像が挿入されます。木片で遊んだり、ボートの練習をしたりの、本当にありふれた日常。
難民たちのシーンと少年のシーンは最後まで交差する事は有りません。この対比は恰も、両者が積極的に関わろうとしない限りは、彼等の世界はずっと別々のままであるという事を物語っている様に感じられました。
外見や暮らし向きの違いから、少年と我々の世界を同一視するのは困難に思えますが、もし難民たちを焦点としたパースペクティブの中で、少年の生活の延長上に我々の社会を置くイメージを持つ事が出来れば、この問題提起はうんとリアルな物と感じられるでしょう。
一先ずは自分の立地点を把握すること、それから身近な他者を理解しようと試みる事、他者の背景を想像する事などから始めてみようと思います。
映画の序盤、とても示唆的に感じられる“真っ暗な中で海面に向けられるサーチライト”のシーン。あのヴィジョンを常に頭に置きます。

構成の妙も有り、実際より体感時間はかなり短く感じられます。未見の方は気負わず是非ご覧になってください。少年の無邪気さにはニコニコしちゃいますよ!