mimitakoyaki

マンチェスター・バイ・ザ・シーのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

4.2
どうしたって立ち直ることのできない心を貫くような深い悲しみや自責の念を抱えながら、心に蓋をして生きるしかなかった孤独な男の話で、とても重いストーリーでありながらも、所々に挟まれるユーモアによってどんよりせずに見れて、どうしようもないくらいの悲しみや痛みはそう簡単には消えないし、それを乗り越えることだって簡単ではないけど、それでも今日や明日を生き続け、立ち向かえないことや逃げることも否定しない優しさが感じられて、静かに胸を打つ作品でした。

リーはなかなかイケメンですし無愛想な割には結構モテたりもするんですが、相手が好意を示しても素っ気なく拒否し、人と深く関わる事を避けながら生きてるんですね。
それは自分が抱える絶望がそうさせるてるのかもしれないし、或いは、自分は幸せになってはいけない人間だと自らを罰しながら生きているようにも見えました。
雪深い街で人と交わることもなくただ淡々と便利屋の仕事をこなすだけのリーの孤独の深さが伝わって来ました。

死んだ兄が遺言でリーをまだ16歳の息子の後見人として指名したことは、余りにも辛すぎる過去から逃れて立ち直れないリーを、身寄りのなくなった息子のパトリックと過ごすことで、この街で過去と向き合い、悲しみを抱えた者同士、互いの存在が支えや励みとなって、心の痛みを癒していって欲しいと願ったからなのでしょうか。
弟や息子への深い愛情を感じました。

パトリックとのシーンで象徴的だったのは、拾ったボールをバウンドさせてたリーが、ワンバウンドでパトリックにボールを投げる、キャッチボールにもなりきれてないシーンで、リーとパトリックは互いの胸元に良い球を投げれる程の信頼や近しさはまだないけれど、バウンドしたり転がったりしながらも、相手に向かってボールを投げられるようになったということなのかなと思いました。

それは、他人を拒み、人生に絶望しかなかった孤独な男が、大好きだった兄とパトリックのために、まだまだ深い悲しみの真っ只中にありながらも、ほんの少し前を向こうとしているという微かな兆しをあのヘタクソなボールの投げ合いっこから感じました。

役者陣も素晴らしく、絶望の淵から抜け出せない男をケイシー・アフレックが、さらに元妻のランディをミシェル・ウィリアムズが好演。
2人が再会するシーンは、互いに負った傷の深さがどれほどのものか、その悲しみに苦しみながらも必死で向き合おうとするランディと、そのランディの言葉に少し救われるリーに思わず涙してしまいました。

また、寒々しく荒れて寂しげだけど美しいマンチェスター・バイ・ザ・シーの冬景色が、悲しみを背負った人たちの心情と重なり、最後は雪も溶けて少し穏やかな春がやってきたところで終わっていくのも、ほんの僅かな希望のようなものも感じさせ、長い時間をかけても雪が必ず溶けるように、悲しみが癒されていって欲しいと願わずにはおれませんでした。

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