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窓ぎわのトットちゃんのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.8
普段はアニメ作品は観ないのですが、なんだか評判が良いようなので観に行くと、目が腫れるんじゃないかと心配になるくらい、涙が止まらなくて、終わってからもしばらく席を立てないくらい刺さる素晴らしい作品でした。

美しいものが作品の中に溢れていて、あまりの美しさに胸が何度も熱くなりました。
周りに迷惑をかける「問題児」だったトットちゃんが、トモエ学園に転校してからは、自分の行動や考え、感じた事を自由に表現でき、その事が大人から否定されることもなく、あたたかく受容され、どんどん自分らしさを発揮してのびのび育っていくのが本当に素敵で、どんな子どもの事も包み込んでくれる校長先生の信念は、理想だと思ってもなかなか実践するのは難しく、でも、こんな大人がいてくれ、こんな安心できる居場所を手に入れたトットちゃんは、本当に幸運だと思いました。

体に麻痺があり、そのせいで他の友達のようには遊べないやすあきちゃんに対して、一緒に遊びたい、やすあきちゃんにも見せてあげたい一心で、全トットちゃんをかけた2人の木登りも、一緒に入った初めてのプールも、美しかった。
大好きなやすあきちゃんに喜んで欲しかった腕相撲は、やすあきちゃんの気持ちもトットちゃんの気持ちも、とても尊いと思って泣けました。
なんて純粋なんだろう。

音楽を愛するバイオリニストのお父さんの誇り高さにも震えるほどに心を打たれたし、そのお父さんの背中を押してくれたのがやすあきちゃんの本で、立場の弱い人が強い者に利用されたり犠牲になったりすることへの拒否感や怒り、弱い人たちに思いを寄せる生き方は、大人になってからの黒柳さんの生き方にも繋がっている事を感じました。

自由できらきらしたトモエ学園での日々とは対照的に、戦争はトットちゃんの日常を侵食し、大切な存在も奪っていく、その恐ろしさは説明がなくてもしっかりと伝わってきました。
あれだけ品が良くてモガだった素敵なお母さんが、やつれてモンペを着るようになったり、洒落た洋館の立派なお家も食べ物もなくなり、奪い取られる不安や悲しみはどれ程だったのかと思うし、街全体が出征する若者を万歳万歳と見送る狂気の光景の影には、戦争で傷つけられた人達も描かれていて、トモエ学園と戦争のコントラストがとても心に残りました。

それにしても、戦前の時代にあんなに自由で多様性のある学校が存在していた事にとても驚きました。
日本は特に、学校でも、空気を読む、周りに合わせるなど均質さや同調性を求められると思いますが、小林校長先生の理念は今の時代でも先進的だと感じるくらい、当時はもっと特異なものだったかもしれません。
でも、もう話す事がなくなるまで子どもの話に耳を傾け、便所をひっくり返してもあの一言だし、音楽を通して子どもの気持ちを開放することや、子どもの好奇心や意欲を引き出す環境づくりとか、もう何もかもがすごくて、理想はあってもそうでききれない自分にはグサグサと刺さりました。

また、戦時中の東京の街の活気や、トットちゃんの家の文化的で豊かな暮らしぶり、その時代のあらゆる風景も、ノスタルジックでジーンとします。
その時代に生きた人々や街の雰囲気を感じられたのもとても良かったです。

人権意識が時代とともに高まってはきていても、反動的に外国人や女性、セクシャルマイノリティなどへのあからさまな差別が剥き出しになってきていたり、そんな差別意識や攻撃性は戦争へと向かっていくので、今の日本にとても危ういものを感じているところです。
だから、その人の存在自体を尊いものとして大切にされることや、その対極にある戦争を描いたこの作品は、今の時代にこそ多くの人に見てもらいたいと思いました。

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