mimitakoyaki

コンクリート・ユートピアのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.0
久しぶりの映画館です。
元日にまさかの大地震と津波が起きたこのタイミングで、映画の冒頭からいきなり大災害が起きて平穏だった街が壊滅し瓦礫の山になってしまう映像に、現実の被災地の光景が重なり、怖くて動悸がしそうでした。

全ての建物が崩壊する中、唯一倒壊しなかったマンションの住民がサバイバルする様を、若い夫婦(パクソジュンとパクボヨン)の視点から描かれています。

いまリアルタイムで地震による被害を見てきてる中では、映画内でのいろいろな事が平時に見るよりも切実に迫って来ます。
マンションの住人以外の人が避難してくるのを受け入れるのか追い出すのか、住民が生き残るための物資調達や配給、火事場泥棒からマンションを守るための警備などなど、イビョンホン演じるリーダーの下に住民が組織されますが、極限状態の中でどんどん一線を超えて常軌を逸していくのが恐ろしい。

公務員でごくごく普通の人だったパクソジュンも、とあるきっかけで排除されそうになり、そうならないために過剰に適応しようと自ら率先して危険な事に踏み出していくのもリアルです。
全然そんなことする人じゃなかったのにです。
ギリギリの厳しい状況の中で、誰もが自分や家族を守るため、生き残るために必死で、時には他人を犠牲にしてまでも助かろうとしていくうちに、同調圧力もあって人格が破壊されていくのです。

選民意識からマンション外部の人をゴキブリと呼んで蔑み、守るために攻撃し、奪っていく様は、相手を敵として憎み、殺したパレスチナ人の遺体を裸にして放尿したイスラエル人を想起させました。
パレスチナ人を人間扱いせずにとことん蹂躙し、まるでそれを楽しむかのようで、人間てここまで堕ちるのかと怒りと悲しみでいっぱいになりましたが、作中ではそこまでではないにしても、相手も同じく苦しんでいる人なのだという感覚が完全になくなってしまい、タイトルの「ユートピア」とは逆のディストピアそのものでした。

そして印象に残ったのが、住民のリーダーであるイビョンホンが、家長として家族(このマンションの住人)を守らなければならない的な事を言うんですね。
家長という権威による支配。
そんな人間をトップに据える事で、結局は崩壊するというのをすごく表していて、終盤のパクボヨンを受け入れてくれた避難民の女性たちが対照的に描かれていた事で、ああ、これは家父長制批判が込められているんだなと思いました。

今も能登半島で避難所生活してる方がたくさんいますが、阪神淡路大震災の時も東日本大震災の時も、仕切りたがりの男性が避難所のリーダーになると、いろいろな問題が起きて関係や環境が悪くなったり、性加害が増えたりしたという話も思い出しました。
不自由で高ストレスな状況下に支配的な構造が持ち込まれると、自治が歪められて結局みんなが不幸や危機に陥るというのを、映画を見ながらあらためて感じたところです。

何もなければみんな普通の人だったはず。
それが生存がかかった危機に直面すると、人間が脆くも崩壊していく、その過程を極端に見せながらも、この災害時に危機を煽り、外国人に対するヘイトやデマが蔓延してる現実を思えば、すでに日本では現在進行形で起きてるじゃないかと思って寒気がする思いでした。

危機の中でも、どれだけ人間性を保ち周りの人と協力し合えるか、対等な関係でいられるか、そういうことが試されてるんだなと思い、今の日本人にも強烈に突きつけられてるように感じました。
すごく怖かったけど、今見る事でリアルに感じられるのではないでしょうか。

イビョンホンの怪演もすごいですし、わたしの大好きなキムソニョンさんがまた素晴らしいんですよね。
普通の人が善と悪の境界を行き来するパクソジュンや、極限状態でも助け合おうとするパクボヨンも良かったです。
いつもならお肌スベスベで綺麗なのに、髪もお肌もガサガサのボヨンさんでした。
出番は少なめですが、パクジフの存在も光ってました。

イソファン…10作目
クァクジャヒョン…14作目
キムハクソン…14作目
コンミンジョン…10作目
オムテグ…10作目
チョンヨンギ…12作目
オヒジュン…15作目

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