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マンチェスター・バイ・ザ・シーのhiraginoのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

始まりのシーンの「無人島に連れて行くなら〜」という会話が可愛かった。何もなければずっと仲の良い二人だったんだろうなって思うと切ない。ラストの方でパトリックが叔父さんの写真立てをじっと見つめるシーンが印象的。

どの会話もすれ違っていて、上手く伝わらない。行動も間違いだらけで上手くいかない。
過去の悲劇は不注意が引き起こしたもので、現在も、何かが劇的に良くなったわけじゃない。
そしてそれは作品の最後までほとんどそのまま。はっきりとした心境の変化も訪れないし、分かりやすい救いのようなものも与えられない。

だけど!

どうしても乗り越えられない、というリーの言葉は静かに悲しいけど、それを言えたのはたぶん、少しだけ何かが進んだからだと思う。

結局リーはパトリックの父親が遺言で望んだように後見人にはならなかったけど、リーは最終的にあの船を売らなかった。むしろエンジンを新調することを自分から提案した。養子の件だって、ちゃんとパトリックの幸せを考えて、今の生活を壊さない方法を考えた。
パトリックはリーとマンチェスターで一緒に暮らせないの、と言った。2人の意見は一致しない。だけどそこにはちゃんと愛があった。
お葬式の後のちぐはぐなキャッチボールも、パトリックは最後までボールを追いかけて、ラスト一球はちゃんとリーの手の中に入った。
そういうところに、光は微かに、だけど確かに、あったと思う。

リーはパトリックが遊びに来たり進学するかもしれない時のためにボストンの部屋を準備すると言った。パトリックはリーに進学しないとは言ったけど、会いに行かないとは言わなかった。
だから、きっと、会いに行くはず(と私は信じてる)。


海辺の小さな田舎町の冬から春の風景が静かに美しくて、心に沁みた。全てを克服できなくてもいい。リーもパトリックも、パトリックのお母さんもランディも、みんなそれぞれの弱さや悲しみを持ちつつ、ほんの少しだけ前を向いて生きてる。それでいいんだ、それだけで救いなんだって思えた。
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