フラハティ

マンチェスター・バイ・ザ・シーのフラハティのレビュー・感想・評価

3.9
家の前の雪をかこう。
また積もる。
家の前の雪をかこう。
また積もる。


人生とは進んでいく時間と過ごすこと。
上手く過ごせればきっと幸せだ。
だが人生とはそんなに簡単じゃない。
誰もが、どこかで悲しみを背負う。
どんな形であっても、悲しみを背負わず生きている人間はいない。断言できる。

どう過ごせば楽に生きていけるか。
実はそれって意外と簡単なんだ。
自分を閉ざし、人との関わりは最小限で、人に期待しないことだ。
そうすれば我慢することも、気を遣うことも無くなる。

人生は生きていれば多くのことが起こる。楽しいことも辛いことも。
どれ程辛いことが起きても、僕のなかで絶対にありえない選択肢がある。
それは自ら死を選ぶこと。
今は辛いことだらけかもしれない。
でもさ、時は進んでいくんだ。
そこでフェードアウトするのか?
生きているだけで多くの選択肢が与えられるのに、なぜ可能性を無くすような最悪の選択肢を選ぶのか。
でもさ分かるんだよ、人生を諦めたくなるような気持ちも。


過去の過ち。今という時間を閉ざすことで傷口を広げないようにしかできないリー。
父の死を何とか受け止めようとするパトリック。
リーとパトリックは、人の死という共通の痛みを心に持ちながら、表面的には対照的。
パトリックはリア充っぽいよね。
でもリーは堅く心を閉ざしてる。
リーは過去の苦しみと連鎖した痛みだ。
心をあの瞬間から閉ざすことで、より痛みを伴わないようにしてきた。
触れたくない過去、あの土地。
ずっと避けながらも、心の中に居座り続ける悪夢。
わかんないんだよね、自分の感情って。
いつ爆発するんだろうって。
本作の良さは、リーの気持ちのわずかな変化が描かれながらも、明確な着地点を提示することがないところ。
人生に正解がないように、これから先の歩き方だって人によって変わる。

本作で登場する人物たちもみんながみんな聖人なわけじゃない。
傲慢なやつもいれば、自分勝手なやつもいれば、過去の苦しみを受け止め更正する人や、業務的な生活を続ける人。
リーが便利屋という職業から、冒頭で様々な人たちの人となりが見えてくる演出なのも面白い。
人が苦しみを抱えながら生きるのは、宿命なのかも。
ただ、それをどう自分なりに噛み砕いて受け止めていくのかっていうのはその人次第。
クソみたいなやつだって、きっとどこかで苦しんでるんだ。

表では強く見えても、誰もが心のなかは弱く脆いものだと思う。
そういうときは深く沈むのもいい。
無理して立ち上がる必要はない。
逃げてもいいんだ。
いつか越えられるように。
でも自分の人生を忘れないで。
どこからでもやり直せる。

本作では一見ムダに見えるシーンも多いように思う。
それは、人生においては劇的に大切な時間ばかりではなく、ムダとも思える時間も人生には必要ってことなんだよね。
その時間はムダでもあり、回復でもあり、癒しでもあるような気がするよ。


雪ってすごい不思議だよね。
冷たければ固まって積もっていく。
暖かければ溶けて無くなる。
人の心と同じじゃない?
人の心も冷たく凍ってしまえば、雪の壁のように閉ざされてしまう。
人の心が暖められれば、雪の壁は溶けていき、閉ざされていた心がようやく見えてくる。
でも一気に溶けることはない。
じわじわと少しずつ溶けていくんだ。
雪が溶けていけば何が見えると思う?
太陽の光が見えるんだ。
フラハティ

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