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ロスト・バケーションのtjZeroのレビュー・感想・評価

ロスト・バケーション(2016年製作の映画)
3.9
サーフィンの穴場である、メキシコのシークレット・ビーチを単身訪れたナンシー(ブレイク・ライヴリー)は、座礁したクジラを食らいに来たサメに襲われ、浅瀬(=原題”THE SHALLOWS”)にとり残される…。

重傷の脚からは血が流れ、満潮が近づく避難場所(浅瀬)はどんどん狭くなり、周囲を巨大サメが周回している…という絶体絶命のシチュエーション。

最初のうちは、
「ハダカ同然のキレイなおねーちゃんがいたぶられるのを鑑賞する、ヘンタイSM映画かなあ」
と感じ、
「そんな映画を楽しんでるオレって何⁈」
と、自己否定というか、卑下する気持に襲われた。

ただ、中盤以降からは、そんなダウナーな気持が、浅瀬に入る潮が入れ替わるように上向きになっていく。

そのきっかけは、ナンシーと共に浅瀬に避難した、翼を脱臼したカモメの存在。
物言わぬこの一羽の存在が、心細いナンシーの救いとなっていく…。

…この構図って、どこかで観たことあるな~と思っていたら、思い出した。
トム・ハンクス主演の『キャスト・アウェイ』。
あの映画のバスケットボールの”ウィルソン”が、ちょうどこの映画のカモメと同じ役割。
それに気がついてからは、作品の印象も、
ヘンタイSM映画→タフなサヴァイヴァル映画、
へと変化していった。

そして、”キレイなおねーちゃん”だったナンシー像も、”尊敬できる自立した女性”へと変わっていく。
なにしろ彼女、医学生だから脚の傷も自分で縫ってしまうし、己の身体の損耗具合の判断も適確。
サメの周回時間や潮が満ちるまでの猶予なども冷静に計算し、モンスターに立ち向かっていく。
さらに、ヴィデオ・レコーダーに、SOSの他に”いざ”という時のための家族への遺言まで残す、ハートの強さもある。
かつてのホラー映画に頻出した、キャーキャー泣き叫ぶだけの”被害者オンリー”ではない、自立した(&尊敬できる)ヒロイン、というかひとりのニンゲンがそこにいる。

そこまで至って改めて思うのは、脚本(アンソニー・ジャスウィンスキー)がよく出来ている、ということ。
ナンシーが医学を志したのも、難病を闘った亡き母がきっかけ。
舞台となったビーチの沖合には、妊娠した女体が横たわったように見える岩礁があって、サメと闘うナンシーを見守っているようにも感じられる。

さらに、そもそもこの海岸はナンシーが産まれるきっかけを作った父母の思い出の地であり、孤独な闘いを続ける彼女にも、心理的には家族のバックアップが付いている…という心強い印象も与える。

全体として短めの尺(86分)にもかかわらず、序盤でこれだけ豊かな”前フリ”というか”ネタフリ”が出来ていればこその、クライマックスの盛り上がりなのかなあ、と感じた。


《付記》
それにしても、サメにはすっかり、「ヒトを襲うモンスター」のイメージが定着してしまいましたね。
実際にはヒトを襲うことはほとんど無いようですが、’75年のあの映画の影響で、世界中の人々にモンスターの印象が植え付けられてしまいました。
もしサメに”人権”のようなものがあるとしたら、サメ族のみなさんはスピルバーグを”人権侵害”で訴えた方がいいのかもしれませんね😉。
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