Oto

お嬢さんのOtoのレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
4.7
すっげえ刺さった...未来の自分から今観るならこれだよという啓示が来たのかなと思うくらい.勧められたけど眠いし時間ないから冒頭だけ観ようと思ったら2時間半+αが経ってた.
修論とか環境変化とかストレスの多い最近,映画や音楽の魅力に改めて気づいている.やっぱり解消というのは問題がなければ生まれないので,ある程度の強制的な負荷というのは必要だし,自分にとってもそういう時期に観てなかったらここまで刺さってない.

好きな点はいくらでも挙げられそうだけど,2人の抱える問題がまさに自分が抱える問題であり,その後の関係性が今の自分にとって理想的な美しさを放っていたから,フィクションに思えなかったというのが一番の理由だと思う.

それはテーマが素晴らしいだけじゃなくて,最適な形で描ける表現を追求してることが素晴らしいのだと思う.
1部終了での反転がまず見事だけど,これって最初の「うぶに見えるけど狡猾な侍女と,達者に見えるけどピュアなお嬢さん」という設定の時点で勝ってる(今書いてるシナリオの参考にめっちゃなるのでありがたい).理性と感性の葛藤も完璧で,1部単体でみてもドラマが成立してるので密度が濃い.
2部中盤辺りからは種明かしが上手すぎて快感の連続だったけど,これもやっぱり1部での伏せ方が絶妙なんだと思う(朗読内容,上月との関係性など).この辺りは『Face Off』を彷彿とさせる「別人に見える」要素と,『桐島』『羅生門』『ワンダー』的な「別人から見える」要素が融合しててとても感動した.日本語の拙さをノイズと感じて「字幕つけてや」と思っていたのを反省するくらいにはトリックと手法がマッチしてたし,日本統治下という設定のおかげでその違和感もギリギリ許せるようになってるのがすごい.(いや,むしろこの言語的トリックって日本人だけが楽しめる特権みたいなところある)
『Sting』のようなコンゲーム性も感じて,1部でところどころ感じていた小さな違和感やぎこちなさ(これは騙せてるのか?というぎこちない作り物感)が意図的だったことを知ると同時に,引っかかるけどスルーできるという絶妙な伏線を作っていたんだなと驚いた.

それでいてさらに,建前でない部分がお互いに存在していたところにとても共感できたし感動した.
何も隠さなくていい・嘘をつかなくていい関係を模索していても,やっぱり明かしきれないし信じきれない自分はいて,普段から出来るふりをすることも馬鹿のふりをすることだっていくらでもあるけど,それでもその人だからこそ見せられる恥ずかしい部分が存在して,それを開示して埋め合うことでwin-winが生まれているのが最高.「死体と交わってると思うかも」からの「秀でた美しさでございます」.
『愛がなんだ』をみて,誰かや何かを好きになるって結局それが好きな自分を見つけるということだと知ったけど,他者を鏡にしないと自分は見えないというのを実感した.その意味では弱い素の自分を見せられるのって幸せなことなんだなぁと感謝が生まれた.

だから,2人はちゃんと自分らしく生きる道を優先して選べてるのかも.口移しとか”初夜”の選択とか超かっこいいと思ったけど,復讐とか自己犠牲より自己実現の方が大事だと,監督も登場人物も意識してるのだろうと思った.
悪役も「女は力ずくの関係で快楽を感じる」でまじのクズだなと思ったけど,あんな人いまだにいくらでもいるし,痴漢とかレイプとかなくなっていないので,この映画の存在意義は大きい.罰を与えた上で私刑は否定して解放するような終わり方も完璧だと思ったし,唸り声が裏で響いてるのも最高だった.

『Parasite』と同じく色んなジャンルが合体してて,複雑な現代ってこうでないと描けないのかもとすら思ったし,撮影の手柄もめちゃめちゃでかい.恐ろしくも撮れる,官能的にも撮れる,幻想的にも撮れる.広い屋敷に入ってくのは,子供の頃に千と千尋とかハリーポッターをみて感じていた高揚感があった.
画面内の美術,衣装,役者,セット,全てが目の保養になるというのもすごい.特に印象的だったのは,米粒を1つずつ食べるクロスカットと,素早いピント送りの多用.侍女が入ってくるトランジションもかっこよすぎるよ.

序盤以外で「説明」のパートがほとんどないのも凄かった.終盤とか,ただの種明かしに徹してしまいそうなところを,最後まで騙しというコンセプトを貫いて描いていたし,「予想がつきそうになったらあえて明かしてしまう」みたいな潔さも,観客の心理が見えすぎてて驚いた.原作も勧められたまま読んでないので読みたい.

映画を通じて人を知れた気がするし、憧れと感謝と創作意欲が生まれて,映画は役に立つものだと久々に本気で感じた.
もっと早く出会っていればなんてことら全く思わなくて、今出会ったことに意味を感じるから、むしろ過去に雑な形で出会わなくて良かったと思うくらい、思えばのめり込んだ体験って今までもそうだったかも、何回も観たい
Oto

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