カテリーナ

セールスマンのカテリーナのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.5
彼女の消えた浜辺の美しいタラネ・アリドゥスティ

教師のエマッド(シャハブ・ホセイニ)と妻ラナ(タラネ・アリドゥスティ)が暮らす
アパート 幼な子のけたたましい泣声で
幕を開ける 理由は不明だが建物の倒壊の危険があるので避難せよと住人が口々に叫ぶ 一体この国の建造物はどんな造り方を
してるんだと訝しむ 序盤から不穏な空気に包まれる

この夫婦は劇団に所属していて
『セールスマンの死』
の初日上演を間近に控えている中 急遽新居を探さなければならなくなる 劇団員の一人が明日暇ならと空き家のアパートを紹介する ラナとエマッドが部屋を次々と物色してると鍵がかかっていて開かない部屋がある事に気付く それは転居した筈の女性の私物だった
それでも数ヶ月ここで暮らす事を決めたふたりは引越しの準備にかかる
しかし、転居した女性はどうやらいかがわしい職業で訳ありだと後でわかるのだが

ラナがインターホンの相手を確認もせず
ドアを開けてシャワーを浴びる
つい、忙しさにかまけて自分もやってしまう恐れのある事、ほんの些細な過ちだが
後悔しても もう遅い 「あの時あなただと確認していれば」
日常を壊していくのはこんな些細な事なんだとカメラは少し開かれたドアをただ黙って見つめる

隠そうとする妻と警察に通報しようとする夫 傷ついた妻に優しい言葉をかける代わりに「お前が理解できない 夜はそばへ来るな
昼は側にいてくれと言う」
と苛立ちを露わにし暴言を吐く
決して冷たい夫ではないが すれ違うふたり
の心情が切ない
妻の気持ちは分からなくもないが夫はこんな時どんな心境になるのか ひたすら犯人に対して憎悪が肥大して行く
我慢して我慢して日常を過ごして行く夫が自ら犯人捜しに乗り出し 辿り着いた答えが
観客の想像の範疇を超え肩透かしを食らう そこからラストまで途轍もない心理状態に置かれる観客 上質のサスペンスとは正にこれだ!そんな緊張感の中
犯した罪を裁く事はできるのか?
膨れ上がった憎しみは一旦破裂した後
どこへ向かうのだろうか
とことんまで追い詰めて そして隠して
上乗せされた別の罪が生まれるのを
固唾を飲んで息を殺して
目撃するのだ
その後の顚末の行方を案じながら
淡々と粛々と幕が閉じる
カテリーナ

カテリーナ