優しいアロエ

セールスマンの優しいアロエのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.0
 演劇『セールスマンの死』の舞台に立つ夫婦に起こった痛ましい事件。放心状態に陥る妻と真相を追おうとする夫。大事には至らなかったはずの事件が、夫婦生活の歯車を狂わせる。
——————

 実在の戯曲『セールスマンの死』のストーリー展開が、今作『セールスマン』のキャラクターの心理と呼応する構成。私はこの戯曲の名前すら知らなかったが、特に問題はなかった。とはいえ、あらすじくらいは抑えていたほうが深く楽しめるかもしれない。

 事件が起き、虚ろな表情を見せる妻ラナ。その様子の変わりように、夫エマッドは一人で犯人探しを始める。そして、妻のために始めたはずの彼の行動は、いつしか自分の怒りに身を任せたものに変わってしまっていた(もしくは最初から)。

 そして終盤、『プリズナーズ』を思わせる展開に目が離せない。『プリズナーズ』のヒュー・ジャックマン演じる父親ほど行きすぎてはいないが、エマッドもまた目的のために手段を選ばなかった。
エマッドの行動は彼の立場を考えれば理解できなくもないのだが、因果応報というべきか、善悪の境界線を一歩超えてしまった彼に幸せな生活は戻ってこない。

 事件の解決が事態の解決に至らないのはファルハディの描くサスペンスの一貫した魅力。今作『セールスマン』の夫婦もまた微妙な空気感の中で関係を保ち、舞台に立ち続けるのだろうか。

少し中だるみした印象はあったが、後半の心理描写は素晴らしく、苦味も残った。夫婦ならではの面倒くささや居心地の悪さを描くというのもファルハディ特有の一貫性であり、それを存分に感じられる一本だった。
優しいアロエ

優しいアロエ