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ブンミおじさんの森の一のレビュー・感想・評価

ブンミおじさんの森(2010年製作の映画)
3.5
タイの名匠 アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品

タイの僧侶による著書「前世を思い出せる男」を基に、余命がいくばくもない中年男性のブンミの体験する輪廻転生の物語をファンタジックに描く

多分永遠に癖強めの監督のフルネームは覚えられないけど、言語化しづらいそこはかとない不思議な魅力に溢れる作品だと思う

神秘さを纏った静謐な映画なのに、これがまたなかなかぶっ飛んだ世界観というか
ここまで説明描写皆無のガチガチな難解映画はかなり久しぶりに観た気がする

この不可思議かつ訳のわからなさと芸術性の両立はお見事ですが、いかんせん自分のような凡人には意味不明過ぎてついていけない
タイの歴史や宗教観をちゃんと知った上で観ないと理解するのはかなり難しいかも

そんなわからないことだらけなのになぜかこの雰囲気は嫌いになれないし、想像力を無限に刺激してくる圧倒的な表現力は紛れもなく監督の才能
なので単にこの映画を退屈という言葉で片付けるのは勿体ない気がする

死期が迫るブンミおじさんのなんともいえない悟ったような表情や佇まいが印象深く、輪廻転生をおとぎ話のようにファンタジックに描き、当たり前のように死者があらわれたり動物が変身したりとやりたい放題なのに、一切違和感がないのも凄い

目だけ真っ赤で毛むくじゃらな姿をしたゴリラの怪物のような見た目は、思わず『ありがとう、トニ・エルドマン』のあのコスプレを思い出さずにはいられなかったけど、脳裏に焼き付くほど凄まじいインパクトを残してくれる圧倒的なビジュアル

ただ正直パルムドール受賞作という雰囲気はそれほどなく、アートに振り切った独特の死生観を終始観せつけられているような感覚で、あまりにも芸術指向が強いせいか、特殊な幻想を観ているかと錯覚するほど高尚な作品なので、最初から考えるより感じろ系の作品として観ていたらもっと純粋に楽しめたかもしれない

唯一気になった所で言うと、唐突に流れるエンディング曲が物語の雰囲気とあまりにもかけ離れている気がしてならない

恐らく10人中9人はなにこれ?と思ってしまうような作品ですが、世界にはこういう映像作品もあるということを知る意味でも鑑賞する価値は大いにありました

〈 Rotten Tomatoes 🍅89% 🍿61% 〉
〈 IMDb 6.7 / Metascore 87 / Letterboxd 3.8 〉

2021 自宅鑑賞 No.171 GEO
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