踊る猫

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの踊る猫のレビュー・感想・評価

4.1
骨太なストーリーだと思った。悪く言えば「遊び」がない。話を面白くさせるための贅肉やムダ(例えば、サリンジャーにまつわるマニアックなトリビア)が存在しないので、サリンジャーという作家を密着したところから撮って語っている極めて暑苦しいストーリーテリングに至っているように見える。そこが最初は否定的に感じられた。だが、そうではないなとも考え直した。観たあとに感じた爽快感はそんな暑苦しさとは違ったところから現れているのだから。私は「この映画の中の」サリンジャーに素直に共感できたので、その意味では人物像を(時代背景や彼の作品の価値は二の次として)語った制作陣の企みは成功していると言えるのかもしれないと思ったのだ。古典的とも言える重厚な語り口もよく、あざとくこちらを釣るエフェクトも一切禁欲された正統派の語りに唸らされた。だが、傑作とも手放しで絶賛できないのはこの映画がそういった生真面目過ぎる語り口――例えば、学校の弁論大会の発表を聞いているかのような終始息苦しいまでに行儀の良いスタイル――に淫しているからかなとも思う。その行儀の良さこそ本作の美点なので、これはないものねだりなのかもしれないのだが。
踊る猫

踊る猫