ギズモX

アルジェの戦いのギズモXのレビュー・感想・評価

アルジェの戦い(1966年製作の映画)
5.0
【アルジェリア1200万人のエネルギー爆発!】

「こうする他に道はなかった」
「これが人間の世界です」
「諦めねば」

「それは違う」
「人間が作ったのだ」
「こういう世界を」
映画『ミッション』より

1954年から62年にわたるフランス領アルジェリアでの独立戦争を圧倒的スケールで写し出す実録系戦争映画。
アルジェリアの首都アルジェ市内でゲリラ戦を繰り広げるレジスタンスと、それを阻止せんとするフランス空挺部隊の攻防を描いた物語。

リアリズム。
僕が映画の中におけるリアリズムな演出が好きな理由は、人間や社会の本質を読み解こうとするパワーに魅了されるからに他ならない。
激動の時代の波に流されながらも、必死に生きる者達の生涯を通して、"今のこの時代に何を思い、どう戦うか"をダイレクトに叩きつけてくるその荒々しさ。
そして、そういったリアリズムの最高峰と言える作品が本作『アルジェの戦い』だ。

映画を制作するにあたって記録映像を一切使わず、数千人にも及ぶ証言や残された記録をもとに、実際に独立を体験したアルジェリア市民約8万人をエキストラとして参加させ、当時何が起きたのかを鮮明なドキュメンタリータッチで再現することで、人の心の中に宿る闘志をダイナミックに表現した。

人物の心理描写がとにかく圧倒的。
本作の最大の特徴は、虐げられていた民族が自由を勝ち取るストーリーであるにも関わらず、レジスタンスだけでなくフランス側にもスポットを当てて、彼らが起こしたテロリズムについても容赦なく切り込んでいることだ。
報復が新たな報復を生み出す負の連鎖をこと細かく描写していて、物語が単なる二元論な構造をしていない。
また、両方の勢力を同時に描いた作品にありがちなのが、互いの主義主張がぶつかり合って結局何も言えなくなり、人は醜いだとか、争いは終わらないだとか、人にはそれぞれの正義があるだとかで終わってしまうパターン。
伝えたいことは理解できるが(本当にそれだけか)と頭の中にモヤモヤしたしこりが残りがちだ。
だけど、本作は両陣営ともに事の重大さを理解しており、無闇に己の正義を振りかざすといった野暮なことはしていない。
なぜこのような事態になったのか、流血が伴うとしても実行しなければならないのか、現在の勢力と情勢を正確に調べ上げて、この多大な戦争犯罪をもたらした社会の実態を徹底的に暴き出している。
この映画の本当の敵は人種間の対立を生み出した社会構造そのものだ。

『独裁者』『七人の侍』『大脱走』『フレンチコネクション』『仁義なき戦い』『パピヨン』『ガンジー』『ミッション』『プラトーン』『マルコムX』『アンダーグラウンド』そして『沈黙』
数多くのリアリズムな作品が示した自由と真実の道を示さんとする力。
その到達点がラスト10分で勃発するアラブ人達の蜂起の中にある。

何者にも消せぬ怒りと叫び。
脳天に弾丸をぶち込まれる大傑作だ。

【民衆よ、何を望む!】
ギズモX

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