『黒衣の刺客』（2015 侯孝賢）同様
これこそがまさに
すごい体力でございましたね（蓮實重彦 ユリイカ2018.9）
上演の映画、再び。

初っ端から超ハイテンションな移動に、オペラハウスの撮影も豪華だし、観客も申し分ない。繋ぎも完璧な状態で始まる、映画、映画館についてのシークェンス。劇場の形態と、あのスクリーンを囲む深い闇と音の広がりは、アテネフランセで観るのが一番いいんだろう。これはワクワクする。昔手にしたオリヴェイラの洋書のカバーが『繻子の靴』の月夜の海で泳ぐイメージのスチルだったが、確認できてよかった。『クリスマス・ストーリー 』アンヌ・コンシニーの小舟の上での詩の朗読のようなものは、この後のゴダールの映画史、ジュリー・デルピーを想起した。航路標識

地図や版画の
大好きな
子供にとって
地上世界は
その広大な食欲と同じ大きさだ

ああ！ランプの下で見る世界の、
なんと大きいこと！
思い出の目で見る世界の、
なんと小さいこと！

ある朝、われわれは出発する
脳髄には炎をみなぎらせ
胸は怨みと苦い欲望の数々に
塞がれつつ
そして、うねる大波のリズム（律動）のまにまに
私たちはゆく
海原の有限の上に
われらの無限を揺りながら

ジュリー・デルピー 『悪の華』「旅」

それにしても長い、長すぎる。御年７７歳でこれを撮ってるオリヴェイラは狂気過ぎる。たぶんリハーサルと本番の撮影と、劇場に２ヶ月以上毎日通っている（撮影期間は8ヶ月らしい）はずだが。父ルイス・ミゲル・シントラのもとに、救出と凱旋として娘であるアンヌ・コンシニーが現れなかったことは残念であったし、ラストも声楽ではなかった。
自然さの彼方において古典は映画を刷新し続ける。サイレント期（フィルムというテクスト）は無言の眼差しと想像上の力強い発話のリズムにおいて、やはり強力である。何よりも顔。
一緒に観た友人はこう言っていた。
この映画はオリヴェイラの映画は、観客がスクリーンを見つめる以上に、人物たちの方がよりおおく強く、観客たちを、映画を見つめていると。

真夜中に『岸辺の旅』と『ピートと秘密の友達』を見直して救われた。
動物の顔と愛のまなざし。

¥5000払ったからと言って好評価への強迫に駆られるほど自分の魂のステージは低くないです。
優れて全体を語れない断片の集積と言いますか、ナラトロジーとショットの強度が（世間的に広く知れ渡ってる「神曲」以降と比べて)かなり脆弱。演劇と映画の権力関係を哲学するみたいな副主題が至極遠くに感じられるほど退屈なのだが...戯曲のスケールは「クレーブの奥方」くらい大胆に映画的翻訳を果たしてくれた方が良い。せっかくセットを拵えてるのに、実は舞台を映してますみたいな細工で幾つも実存のレイヤーを重ねることの実験性が飲み込めない。この映画を上映するくらいなら普通に原作を配り歩いた方が良い。
映写の問題もあるけど画面がしばしばガタつくのがキツイ。
「ボレロ」みたいなBGMがしばしば流れる。

オリヴェイラ作品が内包するパーソナルな命題への試みが鮮明かつ分かりやすい形で炸裂しているイッポン。まあ正直楽しめたかどうかって事よりも無事完走できた事がうれしい。揺れる船上パート。朝日ホール。

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