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ヒトラーの贋札ののらのレビュー・感想・評価

ヒトラーの贋札(2007年製作の映画)
3.5
タイトルにヒトラーと付いているものの、ヒトラーは出てこない映画で原題は「偽造者」という意味のドイツ映画。制作はヒトラー映画の金字塔といえる「ヒトラー 最期の12日間」と同じところが担当してる。

話としては第二次世界大戦末期にナチスドイツによって行われたベルンハルト作戦の様子を描いている。これは偽札を作ってイギリスの経済を混乱させるというもの。たかが偽札で劣勢のドイツが逆転できるほどイギリス経済が混乱するのか?と思うが、真贋を見極めるのが困難な偽札というのは流通しなくても、存在が確認されるだけで経済を混乱させる効果がある、実際イギリスでは5ポンド紙幣が利用できなくなる事態にまでなっていた。

それでその偽札を誰が作っていたのか?というのがこの映画のメインストーリーになっている。ナチスによってアウシュビッツからザクセンハウゼン強制収容所に連れてこられたユダヤ人達がそれを作っている。

つまり主人公達はナチスのために偽札を作らないと即死が待っているという極限の状況に置かれてしまう。必死になって偽ポンド紙幣を完成させると、今度はアメリカドルを依頼される。

しかし主人公はドイツ軍の劣勢を知ってしまう。この偽のドル紙幣の完成を先延ばしにすればするほど、ドイツ軍の敗北が近くなり、皆助かるのではないかと仲間の一人が言い出してサボタージュしだすが、主人公はナチスがユダヤ人を使い捨てにしかしないことを知っているので、自分やその仲間の生命を守るためになんとか完成させないといけない。

かといって戦争が長引けば、より多くの同胞たちがナチスによって殺される、その狭間で揺れ動くという内容で、正しい決断とは何なのだろうか?と思えるラストの物悲しさは非常に良い。

ただ映画としては少し華がない部分がある。強制収容所内にある偽札製造専門の工場という閉じた世界が舞台なので、映画よりも舞台演劇の方が向いている題材かもしれない。

またこの話の舞台はザクセンハウゼン強制収容所で、一般的にホロコーストというとアウシュビッツを連想させるのだけど、ザクセンハウゼンは収容所のキャパに対して収容人数がオーバーしていたり、軍の研究施設やも兼ねていたせいで連合軍に爆撃されたりと、かなり悲惨な事になった強制収容所でそのあたりももう少し掘り下げても良かったかもしれない。
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