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ぼくと魔法の言葉たちのろのレビュー・感想・評価

ぼくと魔法の言葉たち(2016年製作の映画)
5.0

「大人になるのが怖かった。こどもの頃の宝物を失ってしまう気がして・・・」

満席のシアターを窮屈に感じながら、それでも観て良かったと思えた作品と4年越しに再会した。
当時、大学を辞めるか続けるか毎日ぐるぐる考えて、今日も決められなかったと落ち込んで、自分の方向性も定まらず覚悟も出来ず、とてもつらい日々だった。
母との関係もかなり煮詰まっていたので、単身赴任から帰ってきた父と病気についての勉強を進めたかったけれど、その期待も裏切られ、歩み寄ろうとしても撥ねつけられるばかりだった。

「病気」という「個性」も含めてのわたしを受け入れてほしい。
家族への期待と現実とのギャップが苦しくて、そういう現実から逃げたくて次々映画を観た。映画を観ているときだけは気持ちが和らいで、自分には映画しかないんだと思っていた。
だからこそ、オーウェンくんのことがすごく羨ましかった。
2歳で自閉症になった彼の家族は、彼とのコミュニケーションを諦めなかった。
糸口を探し当てるまでの長い道のりと、ディズニーアニメーションが再び家族を繋ぐ瞬間はグッと涙が溢れたけれど、自分の家族と比べてやっぱり羨ましくて、ますます寂しくなった。
だからオーウェンくんの幼少期が語られる前半パートを観るだけでもう精一杯で、彼の将来についての話はあまり聞きたくなかった。大学を卒業したら実家を出て一人暮らしをしながら働いて・・・。将来のこと、先のことなんて考えたくない、考えられない。漠然とした不安から抜け出せずにいた私にとって、映画を通して現実を見ることほど辛いことはなかったと思う。今回改めて観てみると、後半で語られていることのほとんどを覚えていないことに気付いた。

アラジン、ヘラクレス、ピーターパン、シンバ・・・
困難に立ち向かい乗り越えながら、私たちに勇気と元気をくれるディズニー映画の主人公たち。そんな彼らにオーウェンくんは憧れていた。
9歳のときに転入した学校でオーウェンくんはいじめにあう。
地下室にこもった彼は、ディズニーのキャラクターたちの絵を描いた。よく見てみるとどの絵も脇役ばかりだった。
オーウェンくんはお気に入りの脇役たち、イアーゴやセバスチャン、バルー、ラフィキと旅をする。道中彼らを襲うのは、頭の中に霧を吹きこんで世界を悲しく見せかけるという悪役”ファズバッヂ”。迷子になっていた自分の”声”を取り戻す大冒険、この物語の主人公はオーウェンくん自身だった。

両親もお兄ちゃんも、彼自身も年を取る。
大学を卒業することも、働くことも、一人暮らしをすることも。
なにより迷子になっていた自分の言葉が、ディズニー映画を通して彼の中に集まっていくこと、そしてその言葉を誰かに伝えられるようになること。それは彼にとって大きな、嬉しい変化だったのだと思う。

「僕は一人でいたくない!」
「じゃあ新しいガールフレンドを探したら?」
「いやだ!僕はエミリーを愛しているんだ!」
彼女にフラれたことをなかなか受け止められないオーウェンくん。
どうして人生はつらいことばかりなの?とお母さんに電話をかけて、船の上で涙を流すアリエルに自分自身を重ねる。
悲しみや寂しさをゆっくり嚙み砕いて消化していく。そうして現実と折り合いながらまた一つ成長していく。

「自閉症の人は、人と関わりたくないと思われがちだけどそうじゃない。みんなと同じようにおしゃべりがしたいんだ」
コミュニケーションの取り方が微妙に違うだけで、人と関わりたいという気持ちは同じなんだよ。
美女と野獣の”ひとりぼっちの晩餐会”を歌いながら臨んだスピーチには、オーウェンくんのありのままが詰まっていて胸が熱くなった。

この4年間、私にもたくさんの変化があった。
大学を辞めて薬を断って通院の必要もなくなった。
そして就労支援の事業所で再びこの映画を観た。
今は映画と一緒に前を向ける気がしている。


(2017年4月30日 劇場鑑賞時のレビュー ↓↓)


「信じて、きっとできる」

Aikaさんのレビューに背中を押され、劇場へ!日曜日は会員サービスデーではないので空いてるかな~と思っていたのですが、超満員!びっくりしました!

劇場でドキュメンタリーを観ることはあまりないのですが、今作は観て良かった!
自閉症のオーウェンのリアルな生活がより身近に感じられる。
そしてディズニーアニメの名作が大きなスクリーンで観られる!

ジャングルブック
美女と野獣
ライオンキング
ノートルダムの鐘
リトルマーメイド
ピーターパン
ピノキオ

そしてアラジン。オーウェンが大好きなキャラクターのイアーゴが登場するアニメーション。
私は千葉県出身なので、公園デビューがディズニーランドでした。園内にいるキャラクターたちと遊ぶのが大好きで、フック船長&スミー、ピノキオに出てくるギデオン&ファウルフェローたちによく相手をしてもらっていたとか。(悪役ばかりですね…笑)

私が小学一年生のときに、ディズニーシーが開園。
アラビアンコーストでジャファーに出会ったとき、すごく怖かった!でもジャファーの肩に乗っているイアーゴを触らせてもらってから、ジャファーが意外と優しいことに気付いて、一番好きなヴィランズになりました(笑)

オーウェンは学校でディズニークラブを立ち上げる。
ディズニー映画を観て、その内容について語り合うクラブです。そのクラブをジャファーの声優ジョナサン・フリーマンが訪れる場面は、私も大興奮してしまいました!声が渋くてめちゃくちゃかっこいいんですよ~。

ディズニー映画はオーウェンと家族を繋ぐ、架け橋。
家族みんながオーウェンの世界に入るきっかけでもあったし、オーウェンが社会とコミュニケーションを取る取っ掛かりにもなった。

友達が欲しい時は「ジャングルブック」。
何かを乗り越えるときは「ダンボ」。
そんな風に、オーウェン一家の側にはいつもディズニー映画があった。

私もうつ病になって、一番しんどい時に映画と出会いました。苦しい時も楽しい時も、いつも映画と一緒に過ごしてきた。
たとえば、パイン缶を見ると「恋する惑星」を思い出すし、ブランコを見ると「生きる」を思い出す。クリームブリュレといえば「アメリ」だし、トランペットの音を聞くと「五つの銅貨」を連想する。
調子のいい時は「お早よう」のいさむちゃんのマネをして、「アイラブユー!」と言ってみるし、辛い時は「若者のすべて」のアランドロンの涙を思い出す…

映画と生活し始めて、それまでモノクロで味気なかった毎日に少しずつ色が付いて鮮やかになった。これは私にとって衝撃的な出来事でした。やっと生きている実感が持てたし、日々の生活が楽しくなってきた。

オーウェンがディズニー映画を通じて人と交流が出来たように、私も映画のおかげで生きる喜びを感じることが出来ている。

私は明日、明後日、その先のことを考えるのが苦手で不安な気持ちや緊張が勝ってしまう。
ここ数日、眠れない夜が何日も続いていた。

でもこの映画のおかげで、将来に対してすこし前向きになれたかな。自分のしたいことをすればいいし、焦らずゆっくりやっていけばいいんだって思えた。

これからも映画とともに…
ろ