Mokkung

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のMokkungのレビュー・感想・評価

4.2
 この映画の演出上の最大の特徴は、聴覚障害の描き方が非常に説得力あることです。聴覚を失い始める瞬間から、聴覚を失った後の様子まで、主人公ルーベンにフォーカスした視点になるときは、実際の難聴症状を再現した音演出が成されています。キーンと音がしたり、こもった音になったり、全くの無音になったりするんです。なので、この作品は是非ヘッドフォンやイヤフォンで視聴することをおすすめします。

 聴覚障害者たちの生活やコミュニティーの様子をこんなに鮮明に描いた作品は今まで観たことがありません。円卓を囲んだ食事の場面では、みんながお互いに手話で楽しそうに会話しており、時々机を叩いて、その振動で相手にサインを送ったりしているのです。聴覚障害者がこんなにたくさん集まって会話をしている場面を見たのことはなかったので、僕には非常に斬新な映像に写り、正直結構びっくりしました。

 またルーベンは聴覚障害者たちの学校に通い、手話を学びながら子供から大人までいろんな生徒と交流していくことになるんですが、このような聴覚障害者の学校の様子も始めて映像で見ましたし、非常に新鮮でした。彼らは音楽を聞くことはできないですが、床に座って床からダンスミュージックのビートを感じ取ったり、ピアノをみんなで囲んでピアノに触れて音楽を楽しむシーンがあるんです。こうやって振動を感じ取って音楽を楽しむことができるというのは全然意識していなかったですが、確かにそういうものかもしれないと感心しました。聴覚障害者について今まで自分が意識してなかったこと、知らなかったことがたくさんあるんだなということを気付かされる映画でした。実際に聴覚障害者を役者としてたくさん出演させていることも影響していると思います。

 突然の辛い出来事をどうやって受け入れていくのか、ある時を境に社会のマイノリティーになるとどう感じるのか、それを主人公の心の移ろいを通して丁寧に描いている点も非常に見事で素晴らしい作品でした。映画を通して彼の心の変化を与えるのが意外にも聴覚障害によって得られた“静寂”と“振動で感じる音”なのです。それにより、聴覚障害は治すべきものではなくハンデでもない、自分の一部である、ルーベンは最終的にこのことを心から理解し、映画の最後で彼がとる決定的な行動にもつながります。

 この映画は、愛情が無くなったわけではないけれど、もう後戻りのできない大きな変化が二人の関係を終わらせてしまうという、現実にも経験するような恋愛の結末を描いている点でも非常に味わい深いです。思い出しただけで切ないですが、それでも少し爽やかな気持ちで前向きに見終わることができる映画です。




詳しくはこちらに書きました↓
https://mokkung.tumblr.com/post/642119940908941313/
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