Mokkung

37セカンズのMokkungのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.6
 冒頭、主人公ユマが帰宅後、入浴するシーンから始まるのですが、いきなりびっくりするようなハードなシーンが映し出されます。この映画は障害者を扱う感動ポルノのような作品ではなく、真正面から障害を描こうとする生半可な気持ちでは観られない映画だということが、観ている私達に一発で伝わります。こんな演技を行ったユマ役の佳山明さんは本当にすごい(ご本人は実際に脳性麻痺で下肢に障害があるようです)。


 ユマは母子家庭で育っており、おそらく幼い頃から成人した現在まで、ずっと母親に支えられて生きてきたのだと思われるのですが、二人の生活の描写を見ていると次第に違和感を感じる部分が見えてきます。母親はユマを守りたい、支えてあげたいという、愛情からくる考えによって行動しているのだと思いますが、それが行き過ぎていることに気づいていないし、ユマは自分がコントロールしなければ生きていけないと思っており、さらにはその行動に自分の精神状態が依存しているのです。そしてユマ自身も疎ましく思うことはありつつも、その状態を自分の中に内在化してしまっています。


 しかしユマは成人向け漫画の編集部を訪れたことを境に、次第に自分がどうしたいのかということに向き合うようになります。そして性体験を求めて夜の街へ繰り出したことをきっかけに出会った人々との交流を通して、自分を見つめ直し、これまで母親に制御されていた自分の行動の枠が外れ、自分の意志で行動するようになります。それにより次第に母親と対立し始める。中盤以降は、そんなユマの行動変容を描き、それが物語の推進力になっています。


 本作は障害者を主人公としており、一見障害者ならではのテーマを扱った映画のように思えるのですが、決して障害者に限定した話ではなく、世界がもっと広いことを知り、抑圧されていた自分を乗り越え、自分を受け入れ、自分の意志で行動し始めることの尊さを描いた、誰しもに関わるより普遍的なテーマの映画なのです。



詳しくはこちらに書きました↓
https://mokkung.tumblr.com/post/637225150675386368/
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