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サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のsicklychicのレビュー・感想・評価

4.0
なんて苦しい映画なんだろう。

Ruben: LEARN HOW TO BE DEAF

人生の穴を埋めあった、バンド仲間でもあり彼女でもあるルーとツアーに出たルービン。突然、音が殆ど聴こえなくなる症状に見舞われる。

海外のハード系インディミュージシャンで聞きがちなヴィーガン(健康志向)、リストカット、RV生活、とオープニングはステレオタイプすぎないか?と思うも、総じて環境問題や社会問題に真剣に取り組む、真面目でいい人達が多かったりするのもまた事実。

ついこの間まで聴こえていたのが、
急に聴こえなくなる。
更に悪化が急速すぎる上、症状が良くなることはないと医者に断言されてしまう。

ツアーが決まって、アルバムが控えていて、お客さんも増えてきていて、これからというとき。

急に自分に降りかかったこんな大きな問題を、すんなり受け入れられる人はいるだろうか。

ツテから紹介された、聴覚障害をもつ人たちのコミュニティの長、ジョー。
難聴と環境に対応しきれない憤りから物にあたるルービンに、ルーは苦渋の決断でジョーの施設へとルービンを預ける。

ただそこにいるだけで、鳥のさえずりや虫の羽音、草の擦れる音や風になびく木の枝、こんなにもささやかな音が山ほど聞こえてくるはずなのに。

施設や周りの人の協力で手話を覚え、
子供たちやたくさんの人達とコミュニケーションが取れて溶け込めるようになってきたころ。独りでバンドを継続させるルーの映像を観てしまう。

お金さえあれば受けられる手術が成功すれば。
「火の鳥」をなぜか思い出しました。

ジョーの話はいつも一分の隙もなく、
合理的で慈愛に満ちていて、バックグラウンド含めどれだけ苦労してきたのだろうと思う。

初めての音が聞こえたとき、
おそらくルービンと全く同じように
わたしも期待していたのだと分かる。

ルーの寝顔はバラ色の頬にバラ色の唇で。

淡い期待は教会のノイズへ。
見つけたのは kingdom of God。。

後半はずっと苦しかった。
人の優しさに、融通の効かない事実に、
余白のある文明に。

静寂は安寧となるのだろうか。
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