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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のsicklychicのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

ずっと楽しい108分。

一つ一つのシーンにどれだけ拘っているのだろうと思わずにいられない全てのセット、
オープニングのタワー・オブ・テラーみたいなシーンだけでいくつギミックを入れているのか。
すべての色は言わずもがな、シネマトグラフィが極上。こう撮ろうと思えること自体が魔法のよう。
「stranger than paradise」とはまた違った観る写真集(↑個人的に観る写真集だと思った映画なのです)。
最高すぎて字幕が邪魔に思える。
キャプションの出し方までおしゃれ。
4:3と16:9、カラーとモノクロの使い分けがかっこいい。
脚本の言葉選びが素敵すぎる。
ものすごく韻をふむから聞きやすい。
敏腕記者が書いた記事だからだろうか。
大好き。

ティモシー・シャラメが頑張ってウェス・アンダーソンのセリフを言い切るのをなぜか応援してしまった。
出た瞬間の存在感もそうだけども、更に骨格が美しすぎて見惚れる。
そしてレア・セドゥのシワひとつないガードの制服。美しすぎる。

グラッセ大好物の看守が咀嚼音で存在アピールするのも、チラチラ入ってくるおしゃれフォントの”PRISON/ASYLUM”も、誘拐犯がバレエシューズなのも、元縦ロール現corpseがアニメでしっかり顔色悪いのも、クビになった電話番の彼が居座ってるのも、最初から最後まで声無き爆笑の連続でした。

最近横スライドの映画を観たばかりなのだけど、やはり観せる構造として理由があると違和感がない。劇中始まる舞台の完成度も高すぎるし、静止画として扱われる役者さんたちがまた素晴らしい仕上がり。ああもう、至福。

デル・トロ様は相変わらず素敵でした。
いやもう、監獄の中で描ける絵がフレスコなのに納得してしまう。シモーヌ描くのにどれだけの鳩を…
そしていつものビル・マーレイにエイドリアン・ブロディ、オーウェン・ウィルソンと百面相のジェイソン・シュワルツマン。もれなくかっこいい。エドワード・ノートンも健在。
ネスカフィエのセリフは一行か、って言われて思い返したら、“blackbird pie.” 毒で倒れてるのになんで腕にガーゼ巻いてるんだ。見た目が完全に藤田嗣治な監獄料理人というのもすごい。60秒で儀式やりながら鳥むしるのは無理だ。雪景色が羽に見える。

こんなに計算された全力の美しさの中で作り上げるのがコメディなんだから、心底恐れ入ります。
音楽も素敵。小道具も積み重ねられたトーストまで細部に渡る一つ一つが素晴らしい。
映画チケットの価値以上のものをずっと見せられている感じ。ああこんなプロダクションかっこよすぎる。
表紙のイラストレーターの方はどなただろう。
勝手なイメージではあるけど、The New Yorkerみたいだと思った。

ウェス・アンダーソン好きとしては贔屓目に見てしまうけど、それでも最高でした。
こんなにずっと笑って観た映画久しぶりだし、こんなにスッキリたくさんの情報をユーモアで伝えてくることにも脱帽。シュール好きな人はお家でも鑑賞して遠慮なく大爆笑してほしい。

今年もたくさんの良い映画に出会えそうな、そんな気持ちさえ運んできてくれた作品。
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