NM

あゝ、荒野 前篇のNMのネタバレレビュー・内容・結末

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

ボクシングは登場するがそれ以外にもたくさんの要素がある作品。全部盛り。暴力描写が苦手な人も試してみる価値あり。
いくつかの話が並行していく。

はじめの舞台は新宿。
新次は以前オレオレ詐欺をしていたが、反旗を翻した部下・裕二たちと諍いになったところを逮捕された。
裕二に大事な仲間リュウキを殺されかけ、リュウキは以来下半身が不自由。ただ彼自身は車いすではあるもののいきいきとバスケを楽しみ前向きに生きているように見える。
どちらかと言うと新次自身が裕二を恨んでいる。
3年ぶりに少年院を出所し裕二に復讐しに行くと、裕二はボクシングをやっていて防衛のため咄嗟に出たパンチに倒されてしまう。期待の新星として名を馳せているらしい。
新次が倒れているとその時チラシ配りをしていた別のボクシングジムの堀口に勧誘された。

同じく堀口に勧誘された健二。吃音で上手く話せない。
理容師として勤務しているが、家に帰ると酔った父にいつも暴力を振るわれお金を持っていかれてしまう。
韓国で母親と暮らしていた時は普通に話せたが、10歳のとき母が亡くなり日本の父に引き取られて以来31歳の今までずっとつらい日々を送っている。
この日も右手に酷い出血を負った。仕事にも影響が出る。

堀口のジムを訪ねてきた健二と新次。
練習生は他に誰もいなかった。

試しに新次は堀口にかかっていく。すると堀口に触れられもしなかった。
堀口は片目を失明し引退して18年も経つ身。
二人はボクシングを始めることに決めた。

二人とも住み込み、意外と仲良く生活していく。
プロになるんだろ?と堀口に半ば強引に覚悟を問われた二人。
新次はジムのスポンサーである介護会社に職を斡旋してもらい介護の仕事をしながら練習した。

健二は、腹筋が強く意外とパンチも重い。ただ弱腰で殴られると目をつぶる致命的な癖がある。

新次は喧嘩のようにはいかないものの動きにはセンスがある様子。
新次は幼い頃父が自殺し母にも捨てられ、虐められていたところを助けたのがリュウキだった。

二人とも無事プロライセンスを取得。このジムで初。
堀口は二人のリングネームもつけてくれた。二人にトレーナーを雇おうと昼も夜も働いているらしい。
やがて堀口の師匠である馬場がトレーナーとして来てくれた。鬼コーチ。

二人のデビュー戦も決まった。
二人は、試合は相手を憎んだ方が勝つ、と相手の写真を睨みつつ練習に励んだ。

健二の試合。やはり目をつぶってしまい敗退。
健二の相手は八百屋で母と妹を支える普通の青年だった。相手を憎めなかったようだ。

新次の試合。
試合を観に来ていたジムのスポンサーである介護会社の社長、その隣に秘書で愛人でもあるキミヅカという女性が座っていた。
新次はその女性の顔を忘れもしなかった。その途端目つきが変わり試合に圧勝。
試合が終わりキミヅカは新次の名を呼んだが、新次は一瞥して去っていった。

次の試合を控えた新次。
町で、車いすのリュウキと、その犯人である憎き裕二が笑顔で会っているのを見かける。裕二は妻と幼い子を連れている。
別の日のランニング中、再び裕二とすれ違う。あんなことをした心情を聞くと、夢中で働いたのにリュウキも新次も認めてくれなかったから、でもリュウキさんは許してくれてる、と語る。
新次は、関係ねえよ、もう俺とお前の問題なんだよと叫び、二人は別れる。

新次の第二試合の日。
今回は苦戦。相手は余裕の笑み。
だが観客席に裕二を見つけた新次はまた目つきが変わり2ラウンド目で圧倒。

後編に続く。二人はどうなっていくのか。
そして別途示されていた話とはどう絡んでいくのか。


前編での見どころは新次が裕二を恨んできたのに、当の被害者はすっかり許しているといるという複雑な心境。
すぐには気持ちの整理が着けられない心情も理解できる。
俺が服役しているのもあいつのせい、リュウキさんが不自由になったのもあいつのせい、と復讐心を募らせ、それを頼りに3年を過ごしたのだろう。
だが現実ではその間に時間が進みみな成長し整理をつけ自分の人生を生きるようになっていた。
自分だけが取り残された気分。後編でどう処理していくのか、できるのか気になる。
襲った首謀者の裕二は既にボクシングの頭角を表して有名になっていたことから、とっくに出所したかそもそも逮捕されていないようなので、新次からすればそれも上乗せして憎いかもしれない。
どういうわけかやられた方の新次の方が殺人未遂と公務執行妨害がついているので、その後もう一波乱あったのかも。
もしくは裕二も同じような刑期をくらったけど態度が良く新次より早く出れたとか。

新次が星雲ジムに殴り込みに行っても誰もすぐに警察を呼ばないのはリアルだなと思った。トレーナーは侵入者を追い払うことよりも弟子を抑えることのほうに注力している。今まで似たようなトラブルをいくつか経験してるのかもしれない。
新次は堀口を片目と呼んでいたのに、知らないやつが堀口を片目と呼ぶとキレるシーンは二人の絆が感じられて良かった。
新宿のおなじみの場所から見たことのない裏路地まで見ることができる映画でもある。
NM

NM