秋日和

一晩中の秋日和のネタバレレビュー・内容・結末

一晩中(1982年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

いくつもの好きなシーンがあった。例えば、電話を掛けようかどうしようかと部屋をウロウロするところ、ダイヤルを回して相手に繋がってもすぐに受話器を置いてしまうところ。誰かを待っているのか、家の外で行ったり来たりを繰り返し、電話が鳴ればすぐに飛びついて出るところ。夜中にムクリと目を覚まし、冷蔵庫までフラフラ歩いて喉を潤した後、再び訪れた眠気に勝てず、ベッドまで戻ることなくソファでうずくまってしまうところ。細かい個所を拾えばキリがないくらいに好きで、眠れない誰かの夜に立ち会うだけでこんなにもそわそわしてしまうのかと思う。男と女がひたすらに抱き合うから、それもまたそわそわに拍車をかける。何度抱き合ったのか、数えておけばよかった。
飛びきりにお気に入りなのが、旦那と同じベッドで寝る妻のくだり(映画の中で占める割合は10分の1にも満たないけれど)。ぐっすり寝る旦那をよそに、出かける準備をする妻はやや乱暴にトランクへ荷物を詰める。夜逃げなのかも分からないまま彼女を見ていると、さっさと家を出ればいいものを、(これもまたやや乱暴に)暗闇の中で口紅を引きはじめる。ということは別にいる恋人との密会(それか駆け落ち?)が定番だなと思って見守っていると、彼女は一人でホテルに入り、そのままベッドにダイブする。その後の様子が描かれないのでハッキリとは分からない。なので想像の域を出ないけれど、彼女はただ一人になりたかったんじゃないかなと思う。自分だけのためにホテルをとり、自分のためだけに口紅を引く。そしてそれは彼女にとって大切な時間なのではないかと。・・・本格的に朝が訪れる前に家に戻った彼女が夜どうしていたのかなんて、夫は知らない。寝ている間に雨が降って雷が落ちたことも知らないんだろう。
赤いワンピースはどんな暗闇の中でも色褪せないこと、床がきしむ音がよく聞こえるように、夜に聴くレコードは音が澄んでいること。眠れない夜の映画はこんなにも充実しきっていて、昼に観たことを少し後悔するくらい。
秋日和

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