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君の名前で僕を呼んでのsoffieのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.0
2018年公開

ルカ・グァダニーノ監督

原作はアンドレ・アシマン著作
「Call Me by Your Name」
原作者は映画化にあたり
この映画は「恋までの距離」を描いたもので
話はまだ半分、そのためDVD化の時には重要なシーンを入れず、後半の作品を見て始めて完成する作品にすると発表している。


アメリカの超名門大学で教鞭を取る
大学教授を父に。
数ヶ国語を操り翻訳もする知的で美しい母を持つ17歳のエリオ

毎年、北イタリアの別荘を夏と冬借りて、家族はバカンスを過ごす。
そこに父は毎年、博士課程の学生を1人アシスタントとして招待する。
今年は課程論文を執筆中のオリヴァー。

オリヴァーは背が高く、金髪でとてもハンサム。言語学にも造形が深く、教授が毎年皆に出す「アプリコットの語源」のお題にも完璧な答えを導き出す。

17歳で多感なエリオより、自分勝手に振舞うオリヴァーを最初あまり良く思わないのだが…


⤵︎⤵︎⤵︎⚠️ネタバレ⚠️⤵︎⤵︎⤵︎
あまりに美しい映画だったので長々語っていますゴメンなさい。




















この作品を観るのをずっと楽しみにしていたらHuluで配信が始まり
他作品を観るのを辞めて(キアヌ・リーブスが後回しに…)見てみた。

ティモシー・シャラメが可愛くて美しい

簡単なストーリーの説明しか知らず
主人公の少年の恋の相手がポスターなどでは顔が見えないのでどんな人?
と思っていたらトム・フォードの映画
「ノクターナル・アニマルズ」で主人公の女性の美しい夫を演じていたアーミー・ハマーでぶっ飛んだ。
美男を知り抜いたトム・フォードが選んだ美男中の美男が、夏の別荘に現れて6週間一緒に過ごす相手なんて…ゴージャス!

私は2人がどのように惹かれ合ってどちらが最初に好意を持ち恋に落ちるのかに注目していた。

男性同士のラブストーリーがなぜか幼い頃から心の癒しの私にとって
美しい青年と
美しい少年が
北イタリアの美しい別荘で
一夏アカデミックでブルジョワジーな環境で愛を育む…最高級フランス料理のフルコースのような物語だ。😻🍴

24歳のオリヴァーは最初、エリオに呆れられるくらい身勝手、ゲストとして気を使うエリオに「後で」と用意した物を無下に断る。

でもその事をエリオが我慢できず両親に話すシーンがある
「あの人の口癖 、後で、って失礼だよね!
横柄だよ。」

しかし知的で何事にも理解ある両親は

「そうかな、横柄とはおもわない、内気なんだよ」
「彼はこれから6週間ここにいて私達と過ごすのよ、好きになるわ」
と言うが

「見てろよ、最後に言ってやる 後で!って
好きになるなんて…嫌いになるかも」
とエリオは言う。

だがこれはエリオがオリヴァーを意識する大きなポイントだ。
少年にとって最大の価値観の観念である両親がオリヴァーを認めている。
その事でエリオは、オリヴァーに腹が立つが一目置くと共に注意を払うことになる。

オリヴァーはエリオの遊び友達ともすぐ打ち解けて、女の子達に人気、ダンスが上手で、フラッとどこかに消えたと思っていたら、町のバーの常連さん達と既に打ち解けてカード仲間になっていたり。
町の中では自分達家族を除いて唯一のユダヤ人だったり。

最初、勝手な奴だと思っていたが
やがて自分にやたら構って来るようになり、エリオが嫌な顔をするとスッといなくなって大人達の輪の中に戻ってしまう。

オリヴァーはバスルーム続きのエリオの部屋に滞在している(多分そこの部屋の方が広いのだろう)
エリオも使うバスルームにはオリヴァーの水着が干してあったり、風呂の時に洗った下着が乱雑に置いてあったり
普段、両親と家政婦に囲まれキレイに生活している彼にとって大人の男性が身近にいる気配を生身で感じる。

ある日の午後
木陰でギターを弾いたらオリヴァーに褒められた
「もう一度」と言われて
わざと違う弾き方をして
「どうして最初のをもう一度弾かないの」
と軽い言い合いになる。

エリオはすぐ後で
ムキになった自分がバカだったと1人で反省する。

同じ年頃の男女の友達はいたが
エリオは数ヶ国語の言語を話す事が出来て
家の居間に沢山置いてあるあらゆる言語の本を読み、ギターやピアノが弾けて作曲も出来る
早熟なために子どもの和に入るのが億劫な時があり、そんな時オリヴァーは博学な話し相手になる。

父の研究で、ある日港にハドリアヌス帝の時代の少年のブロンズ像が上がる。
ほぼ完璧な形を残し海中からロープで縛られて上がってくる美しい少年像は、何気にエリオに似ているように感じた。
水揚げされたその象の唇から鼻梁にかけて指で辿るオリヴァー


その日、エリオはオリヴァーと水遊びをしてるのが楽しくて、地元の女の子と初体験が出来るかもしれないチャンスを逃す。

天気の良い気だるい午後
家族が留守で
ピアノを弾いたり
オリヴァーの読みかけの本を見てみたり
ふらふらとオリヴァーの居ない彼の部屋に入り、ベッド脇に脱ぎ捨ててある
オリヴァーの水着(?)を手に取り握って顔に近づけて裏向けて頭に被る…(ここはさすがに被るとは思っていなかったのでフランス人やっぱさすがw…と思った)

そして扉の音がしてオリヴァーの声が聞こえたとたん、エリオはオリヴァーの気配の方へ飛ん行き、姿を見つけて後ろ姿を目で追う。

雨の日
母の朗読を聞くため父の膝に頭を乗せて聞くエリオ
ドイツ語で16世紀のフランス小説を読みながら英語に訳してくれる母
その内容は
姫に恋した騎士が、姫の気持ちを知りながら、自分の激しい恋心を伝えるべきか悩む話で

「話すべきか命を絶つべきか。」というテーマがある

その話をオリヴァーにすると
騎士はどうしたの?と聞かれて
「話そうとするけど、核心を避ける」と言うと
「だろうね、フランス小説だから」とオリヴァーは言う。

そして街に出るオリヴァーにエリオは一緒に行くと言って着いてくる。
町の戦争の歴史について説明すると
「君はなんでも知ってるんだね」オリヴァーに言われるが
「大事な事は何もわからない」
「僕が分からない事をオリヴァーに知って欲しい」と伝える。
「それって、僕が思ってる事と同じ?」
とオリヴァーに言われて
エリオは頷く。
全然違う話を振られて
「話すんじゃなかった…」とエリオが言うと、オリヴァーは周りを見みて
「そんな事をここで話すんじゃない」と止める。

その帰りエリオは家に帰る途中
脇道にそれて川辺の自分の秘密の読書の場所をオリヴァーに教える。

そしてこの場所で2人は初めてキスをする

寝転んでいるエリオの唇を
水揚げされたあの少年像の唇を辿ったように、指で触る。

私はどんな映画でも1番最初は止めずに全部流れに沿って見るのだが、このキスシーンはあまりに尊くて美しくて可愛かったので
3回巻き戻してる見てしまった。

でもオリヴァーはとても思慮深く
「僕達はまだお互いに恥ずべき事は何もしてない、だからこのままにしておこう」とその時からエリオに触れない
食事の時隣に座っていたエリオは突然鼻血を出して離席するが、大人たちはいつもの事と驚かない

心配してエリオを探しに来たオリヴァーに
「今だけ側にいて欲しい」とお願いする。

その後からエリオはオリヴァーに家の中でも外でも会わないよう避けられ続ける。
エリオは庭の隅でオリヴァーのかえりを夜になるまで待つが帰って来なかった。

夜中にオリヴァーが帰って来て
エリオの部屋に続くバスルームに来るが、
エリオの部屋の開いていた扉を閉めてしまう。

その物言わぬ拒絶に
「裏切り者」とエリオはつぶやく。

絶えられなくなったエリオは
夜中に何度も自分の気持ちをメモに描き、
重すぎす、深刻になりすぎない内容

「沈黙が苦痛だ 話がしたい」と書いて

ドアの下からオリヴァーの部屋に入れる。

翌朝、オリヴァーはおはようと声をかけてくれた。

朝食の後、自分の部屋の机の上にオリヴァーからメモがあり。

「大人になれ、真夜中に会おう」
と書かれていた。

その夜2人は初めて愛し合い秘密を分かち合う。

抱き合ってはお互いの秘密を打ち明けるように話をし
また愛し合って眠りに落ちる。
目が覚めた時
オリヴァーがエリオに言う
「君の名前で僕を呼んで」
エリオはオリヴァーを見つめながら
「エリオ、エリオ、エリオ…」と呼び
オリヴァーもエリオを「オリヴァー」と瞳を覗き込みながら呼ぶ

とても秘めやかで美しいシーンだが
とても哀しいシーンだ。

「君は僕で、僕は君」というナルシスティックな陶酔の他にも
同性の名前を恋慕って呼ぶと秘密を周りに知られてしまう。
だから自分の名前で恋人を呼ぶ
その意味がわかるのはお互いだけ。
という意味もあると感じた。

こんなに親密な二人なのに
さすがフランス映画(?)

夢の一夜が開けてからのエリオの態度がとてもフランス人的に思えた
どちらかと言うとフランス人の女の子の態度に近い。
真相は好きな人と一夜を過ごして、もっと好きになったけど、自分が子供過ぎて嫌われたんじゃないかと心配で素っ気ない振りをする。

それを言葉で言わないので
オリヴァーはもう隠すことが出来ないくらいメロメロなのに、突き放された気持ちになり混乱する。

そして、この映画を観た人にしかわからない「桃」のシーンとかあるのだけれど
恋に酔っているオリヴァーに対して
「もうすぐお別れの日が来てしまう!」と当然号泣するエリオはやはりフランス人。

「出会った日に着ていたシャツを僕にちょうだい」とエリオが言うのも可愛らしかった。
あんな事を言われたら、何でもあげてしまうだろう。

別れたくないとエリオから言われて
離れがたくてオリヴァーは別荘に滞在した後、イタリアの地方に行く用事がありそれにエリオを同行させたいと教授と母親に言う。
両親は快諾する。

エリオはオリヴァーと数日間2人だけで旅をする機会を得るが
結局、最後は駅でオリヴァーを1人見送り、帰る力が出ずに母親に電話して迎えに来てもらう。

家に帰ってから放心している息子に
父が優しく話しかける。

「自然は狡猾な方法で人の弱さを見つける。
今は、二度と何も感じたくないかもしれない。
それにこんな話はわたしとしたくないだろうが…

お前はたしかな何かを感じた。

お前達は美しい友情を得て、友情以上のものを感じただろう。

それを羨ましく思うよ。

他の親ならそれを疎ましく思い、早く子供がその事を忘れてしまうようにするだろうが、私はそおいう親では無い。

人は早く立ち直ろうと自分の心を削り取り、30までにすり減ってしまう。

そして新たな相手に与えるものが失われ
何も感じなくなる

その感情を無視することはあまりにも惜しいことだ

自分を抑えて妨げる事は人生でとても大切なものを失ったままにする事。

心も体も一度しか手に出来ないものだ
そして、知らぬうちに心は衰える

肉体は誰も見つめてくれず
近づきもされなくなる

今はまだひたすら悲しく苦しいだろうが
痛みを葬るな
感じた喜びも共に忘れずに」


やがて夏が終わり
辺りを雪が覆う頃
ユダヤ教のハヌカのまつりの日が来る。

夕食前の時間、電話が鳴り
エリオが出ると
オリヴァーの声が「エリオ?」と言う。

久しぶりの恋人の声が嬉しくて
「元気だった?どうしてた?どうして電話してきたの?まさか結婚の報告かい?」と
冗談のつもりで言ったら

「春に結婚するかもしれない」と返ってきた
「…それは素敵だね」と反射的に答えると
「2年間なんとなく続いてた相手で…怒ったかい?」と言われる。

両親が電話に割り込んできて
「教授に婚約したことをお知らせしようと思って」とオリヴァーが言うと
両親はオリヴァーを祝福してエリオに電話を替わる。

エリオは「僕の両親は僕と君のこと知ってる」と伝えると
「そうだと分かっていた、君はとても幸運だよ、僕の親ならもし知ったら矯正施設行きだ…。君のご両親は僕を義理の息子のように扱ってくれた。」

それを聞いてたまらなくなったエリオは受話器に向かって
「エリオ」と自分の名前を呼ぶ
一度呼んだら止まらなくなって何度も繰り返して呼んだ。

受話器の向こうで
「オリヴァー」ととても愛おしそうに呼ぶのが聞こえた
「何一つ忘れない」
オリヴァーがそう言った。

電話が終わり
エリオは暖炉の前にしゃがみこみ炎を見つめる。
見つめているとオリヴァーの事
結婚してしまうこと
もう以前のようには二度と戻らないこと様々な感情が彼の中で沸き起こっているのが分かる。

シャラメのこの時の演技はとても繊細で
ゆっくりと湧き上がる感情が
驚きでもなく
怒りでもなく
悲しみでもない、事が分かり
最後に心の底から湧き上がってくる底なしの「寂しさ」に囚われ
その喪失感に深くえぐられて傷付いていく

夏の始め、まだ恋も愛も知らなかったエリオが、失恋することで本当の愛を知る。

本当の愛とは
愛する事に深く傷付き一生忘れることの出来ない程の、痛みを知ることなのかもしれない。

映画はそこで終わる。

私は映画を見終わってから
オリヴァーの立場になって考えてみた。

アメリカの名門大学の教授のヨーロッパの別荘での一夏。
両親と下令に大切に見守られて知性と教養を当たり前のように身に付けた素直でキレイな少年。

それはまるでハドリアヌス帝が寵愛した美しい海から引き上げられたアンティノウスの生まれ変わりのように無垢で純粋。

両親の愛情しか知らない教授の大切な息子だと思うと、自分の邪な感情で汚してはいけないと何度か離れるが、結局、魅力に負けて関係を持ってしまう。
関係を持つと離れがたくなる。
熱に浮かされたように愛を求めるエリオのようには自分はなれない。
年上の責任と現実の生活があるから。

イタリアとフランスの合同制作のこの映画はとてもブルジョワ的で
エリオは失恋しても理解ある両親と
初体験をした後放っておいたガールフレンドさえ彼を許して優しく接してくれる。

現実的には何一つ失っていないエリオが
オリヴァーを永遠に失ったからこそ
その傷の深さが伝わる作品。

オリヴァーとエリオがフランス語で話をするシーンは一度も無く
別荘がイタリアなので半分はイタリア語が聞こえる映画なのに、全体的にはどっぷりフランス映画に感じるのは
やはりティモシー・シャラメがとてもフランス的な俳優だからだろう。

美しい騎士と王子様の恋物語のように感じた映画。

恋人との2人だけにしか分からない名前の呼び方はとても官能的だった。

原作者はこの映画の脚本を書いたジェームス・アイボリーに逆触発されて
この映画の10年後を主要キャストそのままで第2作目を作るそうだが…

どうなるのだろう。


ここに映画のラストで流れた、忘れられない美しいBGMの和訳を残しておく

「Visions of Gideon」

貴方を忘れることが出来ない
この記憶はビデオなの?

貴方に触れた最後の記憶
この想い出はビデオなの?

愛を感じたくて、笑顔を見たくて
貴方の腕に飛び込んだ
この記憶もビデオなの?

愛を感じたくて、笑顔を見たくて
貴方の腕に飛び込んだ
忘れえぬこの映像は、ビデオなの?

ビデオなの?

貴方を愛したこの記憶は
ギデオンの眼差し、ギデオンの見た世界

最後にキスしたこの記憶も
ギデオンの眼差し、ギデオンの見た世界

愛を感じたくて、笑顔を見たくて、
貴方の腕に飛び込んだ
忘れえぬこの映画は、ビデオなの?

愛を感じたくて、笑顔を見たくて
貴方の腕に飛び込んだ
この映画はビデオ?再生を繰り返すビデオなの?

これはギデオンの眼差し、
ギデオンが求めた世界、

何度も何度も再生を繰り返す
ビデオのような世界…



※歌詞の中で何度も出てくるギデオンとは何か

ギデオンとはキリスト教の旧約聖書に登場する神に選ばれた戦士
イスラエルに平和をもたらすために選ばれた。
ギデオンは盲目的に神に仕えて崇拝し従う
、この神とギデオンの関係を、歌の中ではオリヴァーとエリオの関係になぞらえて歌われている


追記・2021年1月
オリヴァー役のアーミー・ハマーのスキャンダルがすっぱ抜かれて、アーミーが進行中の全ての仕事から降板した。
「君の名前で僕を呼んで」の後編はまだ撮影されていないが、事件の内容から見て今後アーミーが俳優業に戻る可能性は低い。
きっと違う役者で後編が制作される事になるだろう。

アーミーはアメリカで知る人ぞ知る、大富豪一族の一人なので働かなくても豪遊生活が送れる。
仕事の違約金を支払って何も無かったように生活していると報道されているが、五代にも遡る「青髭公爵」一族のような闇の歴史があるなら二度と表舞台には戻らないだろう。

オリジナルキャストで再び作品が見れないのはファンとして大変残念で悲しい。
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