ベルサイユ製麺

笑う故郷のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

笑う故郷(2016年製作の映画)
3.4
ストックホルム。
ノーベル賞授与式。文学賞を受賞したマントバーニ氏、苦々しい表情でスピーチを始める。
曰く「私が受賞したのは権威に沿う作品を作ってしまったからだ」「私は都合の良い芸術家なのだ」…。自責と自嘲の入り混じったスピーチで、結果観衆の大喝采を攫う。
5年後、バルセロナ。豪邸に住み悠々自適な生活のマントバーニ。以前は精力的に受けていた講演、イベントや表彰式の類も最近は欠席し続けている。彼は燃え尽きてしまったのか?それとも祭り上げられるのに嫌気がさした?
いつものルーチンで秘書に読み上げさせていた各種依頼の中に、ひとつ気になるものが…。40年間帰っていない故郷サラスからの手紙で、マントバーニを是非表彰したいという…。
どういう風の吹き回しかか、このオファーを受けることにした彼は、単身遠く離れた故郷サラスへ…。

このサラスがまあ、とんでもないど田舎!彼を出迎えたのはスキンヘッドで図体のデカいオッサン。着倒した部屋着のような身なり。車は超年代物で、サラス手前約100キロでパンク…。止む無く夜の平原で野宿。焚火の着火剤はビリっと破いた自身の著書。運転手のオッサンもビリっと破いて、茂みに入りしゃがみこむ…。


…こんな調子で、洗練された文化人が自ら棄てた故郷のど田舎ぶりの洗礼を受けまくる、というのが序盤の展開。言わずもがなのカルチャーギャップコメディです。地元テレビ局の対応とか、消防車での移動とか、ホント酷くて苦笑いモノ。しかし中盤からは田舎の閉鎖性、同調圧力が牙を剥くダークコメディの面が姿を現し、更に終盤のスリラー的展開からゴニョゴニョと…。

自分自身、明確に地元を嫌って飛び出したクチなものですから身につまされまくります。あの、人と人の距離感、視線、胃が痛くなりますね。噂話のタネを探して、微笑んだ形だけの顔の奥の、瞳だけギラギラさせながら町内をパトロール。誰かが口火を切れば傍観者達が猟犬のように群がりやがりますわね、オホホ。
まあしかし、20年近く暮らしていた地元に馴染めなくて外に出たからって、じゃあ出先にはすんなり馴染めるのかと言ったら、そりゃあね、ははははははははぬははわはは…。はい、私が悪うございました。マントバーニ君も分かってると思うよ?その辺。

徐々に別種のジャンルに変容していく構成は良く出来ているし、ラストに良いツイストも有り、「おススメです!」といきたいところではあるのですが、いかんせん全体的に絵が緩んでいる印象なのが好みではありませんでした。タイトルやジャケ写の“名画”感に反して、普通のカナダとかのテレビ映画みたい。前半の田舎っぺコメディみたいな作風のままスリラー展開に突入するので、ちょっと感情が付いていけなかったですのじゃ。勿体ない。例えばジョーダン・ピールやケヴィン・スミスが撮っていたらどうだったろう?とか想像しちゃいました。無益な事である。

…近々帰省する予定があるのだけど、一気に意欲が失せてしまいました。勿論悪いのはわたくしでございます。思いっきり素っ頓狂な格好で帰って思う存分叩かれてやろう☠️