マヒロ

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のマヒロのレビュー・感想・評価

4.0
傑作…と言っていいものかどうか、どうこの映画を解釈すれば良いのか、鑑賞してからしばらく経った今でもなかなか噛み砕ききれていないところがある。

物語としては割と単純で、主人公の小四(シャオスー)というやや落ちこぼれの男子中学生の目線を軸に、「小公園」「217」と呼ばれる子供ギャングの集団や十四の家族に友人、そして小明(シャオミン)という同級生の女の子といった人々を描いていく。
シチュエーション的に一番似てるなと思ったのは『シティ・オブ・ゴッド』で、まだ年端もいかない子供達が派閥に分かれて牽制しあい、時にはマジの殺し合いにまで発展していくという殺伐とした空気感。どちらも実話を元にしているところでも共通していて、人種も文化も何から何まで違う台湾とブラジルで、同じような事が起きていたんだなというのがなんだか面白い。

エドワードヤン監督の作品でいうならば『恐怖分子』『カップルズ』を観た時のガツンとくる衝撃みたいなものは無かった。あちらはあの時代の都会の退廃的な雰囲気がたまらなく良かったので、こちらは電気すらまともに付かない田舎町が舞台だっていうのも関係ありそうだけど。

それでも4時間近い上映時間なんとなく惹きつけられ続けたのは、映画全体に漂う異様な雰囲気によるものだと思う。
常に妙な位置に構えられているカメラは登場人物の肝心な場面を絶妙に映し出さないし、ソリッドの効いた暗闇と仄かな光で構成された画面は素直に格好いい。向こうが全く見通せない真っ暗闇から、不意にバスケットボールが飛び出してくるシーンは、最早オカルト描写かと思ってビックリしてしまった。

小四が気になる女の子・小明は、母親と二人きりで生きていくため、語弊があるかもだが周りの男たちを利用しているというファム・ファタール的な存在。悪意でもって男を翻弄しているわけではないのでちょっと違うかもだけど。
小四の友人である小馬(シャオマー…ってややこしいな本当)や小公園の元ボスであるハニー(絵に描いたような番長スタイルで逆に格好いい)など、ある程度小明に関して割り切って付き合っている奴らと違い、小四は大人になりきれていない思春期真っ只中の少年に過ぎず、そのギャップが徐々に軋轢を生んでいく。

とにかく登場人物が多い割に似たような名前が多く、加えてあだ名もあったりと、途中で何度も「これ誰のことだっけ?」と混乱したので、まだちゃんとこの映画を隅々まで楽しめていないような気はする。上映時間と真綿で首をしめるような雰囲気のおかげでもう一回挑むにはかなりハードルが高いので、時間を置いてまた見返したい…。

(2019.22)
マヒロ

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