フラハティ

アンダー・ザ・シルバーレイクのフラハティのレビュー・感想・評価

3.9
あの頃の自分は、未来の自分を見てなんて思うのだろう。
眩いL.Aの街の明かりは、静かに湖へと消えていく。


今年最後の劇場締めくくり映画。
ガーくんの渾身の全裸走りとか、オタク気質な男を演じている姿を観たくて楽しみにしていた作品。
前評判通り、前半はリンチ的な世界観。
そして後半は驚くことにホドロフスキーっぽかった(『ホーリー・マウンテン』が近い)。
さらにはヒッチコックオマージュや、古典作のオマージュも多く、観ていて楽しめる。


夢見ていた未来との乖離。
それは誰もが痛感しているところだろうが、いつしかダラダラと生き続けていた。
家賃を滞納し、仕事をする姿はなく、清潔感のない風貌。
覗きやゲームやギターで時間を潰し、その日を過ごしていた。
突然舞い込んできた謎は、いつしかこの世界を揺るがす謎へと繋がっていく。

リンチ作品ほど洗練された意味不明さではなく、かろうじて原型を留めていた感じ。
次々と主人公が謎に引き込まれていくため、解消されていない謎もあるように思えるけれど、これはこれで投げ出した感じにも見える。
どうとでも解釈できるのでこれはずるい。

この世には音楽、映画とかの娯楽作品に作り手のメッセージがあったりする。
でも実は特に意味なく、無意識的に意味深な内容となり、受け取り手が裏のメッセージが隠されているのではないかと思うようになる。
本作も結局のところ作り物の虚構であり、現実世界から目を背けるきっかけにもなる。
すべての作品について、監督やアーティストのメッセージがあるわけではなく、ただ金儲けのためだけに作られたものかもしれない。


彼女が失踪した。
彼女を見つけようと、彼女に固執したわけではなく、自分が成功できなかった理由付けをしたかったから。
ヤることしか考えない毎日の生活に理由付けをしたかったから。
よく思い出してみると、この謎全ては主人公の身の回りの物事ばかりなんだよね。
不思議と主人公が思い描いた通りに謎も解けていくわけだしね。
つまり、自分が自堕落な生活をしていることについての理由付けをしたかっただけ。
下に下に堕ちていく人生の途中に、誰かに手を差し伸べてほしかっただけ。
でも現実を突きつけられたとき、ようやく本当の大人へと成長を遂げる。

本作で、謎を解こうとしている人物がもう一人いるが、あの人の立ち位置を見れば、主人公は社会不適合者と忌み嫌っているホームレスとの間で揺れ動いてるっていうのがわかる。


個人的には『アイズ・ワイド・シャット』に近いと思うし、裏の世界で牛耳っている組織があったとしても、自分の生活が変わることはないというのも同じだよね。
確実に好き嫌いが分かれるけど、嫌いじゃないしむしろ好きだった。
ただ、風呂敷を広げすぎて虚構という部分に逃げたように感じたのも事実で、終始モヤモヤが残る作風だなぁ。
でもその謎を解くのもムダに見えて面白いわけだし、ますます泥沼にはまっていくというか何というか。
あとムダに汚い。
ガーフィールドはナイスアクト!


///(コノサキキケン。ネタバレ。)






本作のテーマは、最後の鳥の鳴き声の真相と同じ。
人によって捉え方は変わり、メッセージも変わっていく。
この映画が語っていることそのまんまだよね。

本作は夢を追ったものが、自身の人生を正しく振り返ることができずに、この世界のせいにしている男の物語である。
この世は暗号に溢れ、誰かが裏で操作しているのだ。
ポップカルチャーに逃げ続け、現実世界と折り合いをつけることができなかった青年の成長の物語。


この世に意味があったってなくったっていいんすよ。
裏で誰かが操ってたっていいんすよ。
そこら辺の青年が謎を解いたところで、この現実は変わるわけないんだし。
受動的な生き方、他人のせいにした生き方はただ時間を食い潰しているだけじゃないのか。
この世の流行りなんて誰が発信してるかわかったもんじゃないし、それこそ操作されたもの。

だから現実問題何も解決していないし、答えは見えない。
見つかった先の場所(上を目指すみたいな)とか天国のような世界に見えて、退屈そう。
恵まれている人間は、恵まれ過ぎているがゆえに現実世界では満足できない。
逆に恵まれていない人間が現実に満足できていないならば、どうすればいいのか。
どのみちまともな人生を送れないならば、今の人生とまともに向き合うことのほうが大事でしょ。
この先の未来で何が待っているかはわからないけど、人生を真摯に受け止めよう。

今いる場所がたとえクソみたいなところだとしても、生きていく決意をしなければ。
だからこそ自分が生み出す側になれ。
謎を生み出すのは自分。


フクロウは自殺の暗喩表現っぽい。
女性がめちゃくちゃ登場していたので本物かもしれないけど、自殺した作家の部屋と主人公の部屋にしか現れてないしね。
フラハティ

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