ベルサイユ製麺

リチャードの秘密のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

リチャードの秘密(2012年製作の映画)
3.4
定期的に“どうやら自分はアレをアレしたらしい…”という設定の夢を見てはうなされる自分としては、非常に身につまされました。

映画で見るアイルランドはいつも曇天で、パーティで騒いでてもイチャついていても、何処か陰鬱な空気が漂っています。この空気感は結構重要で、例えばニューヨークのお話なら「銃でふざけてただけなんだよ…」みたいな感じでありふれた事件、かつ他人事と捉えられると思うのですけど、アイルランドの平均的(よりちょっと上)なティーンのリチャードの場合となると、きっとなんの想定も覚悟も無いまま突然“犯人”になってしまうに違いなくて、これが我が身の事だったらと想像しただけ下腹が痛くなってきます…。
撮影も演技も淡々としていて劇伴もほぼない、ドグマ95みたいな作風で描かれる作品世界はまるでドキュメントの様で(知ってる役者がまるでいないのも良いです)、リチャードの苦悩も迫真です。それだけに結末の以外さ・ショッキングさときたら…。

同監督の後の作品『フランク』『ルーム』を観た時点では、監督にとって人格とはとても脆くて、痛みによって完全に壊れてしまったり克服する事で強く出来るようなものだと想定しているのだと感じていました。でも今作を起点として考えると、そもそも人格とは恐ろしく不安定で、器の形や状況に応じて暫定的に形成されるに過ぎない霧の様な物だと考えているのかもしれませんね。
『ルーム』では再誕しようと踠く魂を描いたアブラハムソン監督の今後の作品にも注目したいです。

ところで、この邦題つけた人ほんとに本編観たのかな?結構最低の部類だと思います…。