日尭太郎

THE BATMAN-ザ・バットマンーの日尭太郎のレビュー・感想・評価

4.2
バットマン2年目のブルース・ウェインが、連続殺人犯リドラーの謎掛けに挑む。

何度目かになる実写バットマンの新シリーズ(二作目作られるんだろうか?)
原作アメコミよろしく幾度となくリブートされた映画バットマンであるが、それ故に後発になるほどバットマンをどう書くかという切り口を問われる事になる。
やはりダークナイトが与えた影響は大きく、ヴィランのジョーカー含めて実写バットマンのある種の基準点となった所があると思う。

陰鬱な過去を持つブルース。いつも薄暗く、退廃的なゴッサムシティ。その風景に釣り合う描写を、ダークナイトとは違う視点で。これは非常に難しい。DCEUのバットマンはジャスティス・リーグの一員としての立ち位置で既に独自性を確保できていたので、ダークナイトを回避できた側面がある。

では、今作におけるオリジナリティとは何かというと、バットマン活動を2年目のブルースに焦点を当てた事。ブルースの内面の葛藤を描き、その心の反映となるようなゴッサムシティの闇を映す事。
3時間近くある映画だが、アクション面ではそこまで特筆するほど量が多いわけではない。
しかし、比重をリドラーとの謎掛けやゴッサムシティの汚職についての捜査と推理に割く事で、探偵としてのバットマンの側面をピックアップできている。
さらに、捜査を進めていく上でブルースは自身の心理や両親の正体にも近づいていき、そういったサスペンスがサイコスリラーとして画面に奥行きを与えて、アメコミ映画でミステリーを描ける、バットマンのキャラ性を存分に生かした構成だった。

特に個人的にブルースのキャラ立てが好みで、両親からの遺産を受け継いで大富豪のブルースだが、その生活と振る舞いはニートの引きこもりそのもので、非常に鬱々としている。この血色の悪さがたまらない。
捜査スタイルは帽子にパーカー。リュックにバットスーツを入れてゴッサムを駆け巡る不審者みたいな格好だし、家で過ごす時も引きこもりそのものなラフな格好。髪はセットされておらず、外の人間と関わりを持たない。このアンバランスさ。

そんな彼が対峙するのが、今作のヴィランであるリドラーというより、ゴッサムシティそのものという感じも良い。
リドラーの不気味さもそうだが、ペンギンの一筋縄ではいかない悪辣さや、それ以外のマフィア達も、それら全体がゴッサムシティの複雑な骨組みとして機能し、捜査の中でブルースを翻弄していく様は、スーパーパワーで直接対決による解決が望まれるアメコミにおいて、バットマンでしか描けないものであると思う。

それ故に、やはり最後の最後はアクションで〆ないといけない「お約束」が今作の序盤から貫いてきた態度を薄めてしまった面も否めないが、総合的には3時間近くの上映を感じさせない、むしろ必要であったほどの濃密さを堪能できた。
日尭太郎

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