日尭太郎

007/ノー・タイム・トゥ・ダイの日尭太郎のレビュー・感想・評価

3.9
ダニエル・グレイグボンドの最終作。
エージェントを辞め、ジャマイカで静かに暮らしていたボンドだが、CIAの旧友からの頼みをきっかけに、
スペクターとその影に隠れる黒幕を追う事になる。

従来のボンドの構図を覆すようなグレイグボンドもこれで見納め。
00エージェントではないボンドは消されたライセンスなどで既に出されているが、
今作はスカイフォールでも取り上げられたボンドの内面問題についても切り込んでいき、
よりハードボイルドとしての側面を強化しているようにも思う。

そもそも007の処女作であるドクター・ノオは1962年公開。そして世代と作品を重ね、
ボンドは一種のアイコンのような存在となった。当然、作られる映画の中身は時代を経てガジェットや情勢は変化するものの、
その中身となるものは変わらない。前作スペクターはロジャー・ムーア時代でよく見せたプレイボーイ、お約束なボンドを観る事が出来た。
しかし、やはりそういう構図自体がもう今となっては古臭さを帯びている点は否めない。
だからグレイグボンドは構図を打ち破るような作品がいくつか出ている。
マンネリを打破するにはそうするしかない。そして、今作においてある意味一番の「禁じ手」を行った。

これは今までのボンドの「お約束」、不文律にあえてメスを入れて、歴史的な所在を明らかにしたと言っていいだろう。
強調するかのようなにMの部屋に飾られている歴代Mの肖像画がそれを物語っている。
だから、これは従来のボンドファンにとってはなんともいい難い一作であり、
マンネリを嫌う、あるいはボンドに思い入れがない人間ほど良い作品として捉えられるのではないだろうか。

自分としては序盤~中盤までは今作の悪役となるサフィンの正体不明さと得体のしれなさが相まってかなり期待が高かったが、
このサフィン、蓋を開ければ謎の基地で兵器開発をしているいつものボンドヴィランで、
あの特徴的な能面や日本趣味も単にそれだけだったというションボリ感(それでもキャラ付けとしては得点高いから十分なんだが)
このように、終盤にかけての展開に雑さがある。中盤で出たボンドガールもほんとちょっと出ただけで終了。何なのだろう。

だが、ここに来てボンドをここまで切り込んだ意欲は良いと思う。ダニエル・グレイグ、お疲れ様でした。
日尭太郎

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