日尭太郎

アイの歌声を聴かせての日尭太郎のレビュー・感想・評価

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)
4.0
真面目な性格でクラスでも浮き気味だったサトミは、偶然母親が開発していた人間そっくりのAIロボットが自分の高校に編入して来ることを知る。やってきたAI、シオンはサトミや周囲の人間を巻き込んで、やがて彼らの心を動かしていく。

人間そっくりに模したAIを中心に、青春群像劇を盛り込んだミュージカル風のアニメ映画。
リアリティのある高校生達の生活に、突拍子もなく現れてはディズニーの映画よろしくいきなり歌い出して好き勝手やるシオンが紛れ込んでくる。問題を抱えた彼らはシオンに振り回され、やがて問題と向き合って解決していく、という話を前半に収め、やがてシオンが誕生した秘密に迫り、奪われたシオンをみんなで取り戻しに行く後半で二時間にまとめており、伏線回収の上手さも含めて非常にまとまりがいい。

シオンのキャラ設定やキャスティングに妙味がかなりあって、ミュージカル映画お約束のいきなり歌い出すアレも「まだ未熟なAIだから」と話に沿っているし、表情も序盤はまさにAIらしいわざとらしさが溢れる顔(それでも嫌味に感じないのもキャラデザの秀逸さ)が後半になるにつれて自然なものに見えるさりげなさも好きだ。
シオンに土屋太鳳をキャスティングしたのも良い。俳優にアニメを演じさせると大抵は棒読み的になってしまうというか、シオンも例外ではないんだけどもシオンはロボットだから逆にそれで合っている。でも歌の練習はちゃんとしていたから歌だけはきっちり上手いという具合で、非常に練られたキャラだと思う。

近未来SFとしての風景も良く、よくある田舎町の風景には実はそこかしこにAIが組み込まれており、大層なSFガジェットよりも生活感がある描写の方がより地に足がつく印象が起きやすかったのも慧眼だった。
日尭太郎

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