秋日和

あなた自身とあなたのことの秋日和のレビュー・感想・評価

あなた自身とあなたのこと(2016年製作の映画)
4.5
麺を口元に運んだところで箸を置き、両手をぶらつかせた状態でずるずる音を立ててすすり出す。脚を負傷した男が夜に一人でそんなことをしていたら、誰だって「寂しそうだ」と思ってしまうに違いない。後ろを振り向いたところで誰もいない道をコツコツと松葉杖を音を鳴らしながら歩く姿をはじめとして、どこを叩いても孤独の音が聴こえてきそうな映画だった。例えば、「体力には自信があるよ」と言って自分の肩を叩いてみせる45歳の映画監督がそうだろうし(女性が髪をかきあげているときに口を半開いてしまう彼は、どう考えても「子供」に分類されてしまうのだろう)、「かわいい」と彼女に突き放されながらグラスをぶつけ合う監督の同級生も同様だろう。
「私って男好きする女みたいなの」と自信たっぷりに告げる彼女=ミンジョンは、まるで上目遣いをするためだけに、男よりも随分と低い位置で水遊びを試みる。まさにその前日、男の膝に手を置いて「私たちって魂があわないわ」なんてあっけらかんと言い放ったその姿と全く同じ態度で、そして全く同じ鞄を肩にかけながら。反復される「あなたは誰?」と掛け合わせながら、誰のものでもない彼女はただ一人の女性であり続けようとしているんだと思った。
解体されるマネキンのように役者のパーツを捉えていくホン・サンス。その手や脚が導き出すのは「あなたはあなた自身なのだ」という無言の告白なのかもしれない。彼女が全方位に向けた痛ましき無関心が、観終わった後もずっとヒリヒリする。
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