Jun55

ゲット・アウトのJun55のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.6
ホラーは元々趣味ではないので、この映画を観ることを迷っていたのだけれども、以下の理由で観られずにはいられなかった。
・Rotten Tomatoesで断トツの高評価(99%)であること。
・監督が大好きな黒人コメディコンビKey & Peeleの Jordan Peeleであること。(特にPeeleのオバマ大統領、Keyの怒りの通訳者は最高)

感想を簡潔に述べると、大変面白く、内容が深く、詳細が凝っていて、全体として、とても印象に残る映画だった。
よい意味で期待を裏切られた。
ベースにあるのはアメリカ人に深層に残る黒人差別の問題。
ユーモアとホラーを組み合わせながら見事にその本質を描き出している。
ちなみに、Peele監督は、この映画をソーシャルホラーと名付けているようだ。
このタイミングで黒人差別をテーマとしたことも絶妙なのかもしれない。つまり、8年間のオバマ大統領時代を経ても、未だに黒人差別意識は強く残っていて、その反動のエネルギーがトランプ大統領を生んだともいえるからだ。
似たような意味で「Moonlight」があるのかもしれない。

映画を観た時には気が付かなかったのだが、映画の中で黒人差別を象徴するモノや表現がふんだんに織り込まれている。
これは、映画を観てから、You Tube等で色々と調べて分かってきたのだが。
黒人は映画を観た時にピンと来るのだろうが、日本人には、当然、ピンとこないだろうし、これは観た後につぶさに調べていかないと、この映画の価値が理解できないと思う。
そして、それを知ると、場面場面でのメタファーが巧妙に組み込まれ、それが前後の展開で関連性を持つことが分かり、実に凝った演出であることが理解できる。

アメリカがこれ程までに分断された時代に、この映画は黒人側から白人を強烈に批判した映画、分断を深める映画として捉えることができる。その意味で、どの立場でこの映画を観るのかによって、その見方も変わるし、白人からすると、極めて不快な印象を持つことになるのかもしれない。
ただ、差別する側は差別される側の意識は理解できないことが常であるし、それを極端な設定で描き出すことで、いつまでも解けない呪縛に一石を投じる効果はあるのかもしれない。

繰り返しになるが、この映画は日本人には判り難いのだろうし、そもそもカットせずに放映されるのだろうか。
ちなみに、ホラーはホラーなので、残虐なシーンも出てくる。
ただ、それに優る”ブラック”ユーモア(皮肉)と、社会的なテーマで描くことで、不快感は殆ど意識しなかったし、ホラー映画のカテゴリーでは収まりきらない程の良質な映画になっていると感じた。
Jun55

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