Jun55

’96のJun55のネタバレレビュー・内容・結末

’96(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

IMW2023パート2にて鑑賞。
2018年公開のタミル映画。
多くの映画賞を受賞し、特に主役のカップルを演じたTrisha、VSPの受賞が目立つ。この映画はこの二人の好演に支えられていると思う。(子役の演技も良かったが)
後半は、二人のモノローグが中心になるのだが、決して単調にならず、その言葉、表情、そして緊張感がストーリーにのめりこませる。
何か舞台を見ているような感じだった。

恋愛物語として、ストーリーは、身近に起こっているような日常性があると思うし、特に観客を惹きつけるようなサプライズや派手さはない。
そのような、インド映画では珍しい「静かな展開」が却って心地がいい。
多くの人が経験し、共感できるのだろう日常性が却ってこの映画のヒットの理由なのかもしれない。

主人公のラームは、好きな人の前では極端にシャイ。
男性からは好かれ、特に女性恐怖症でもないのだが。
この愚かすぎる程のピュアなキャラクターが魅力的で、どこにでもいる「不器用な男性」像をうまく描いている。
(男女で逆のシチュエーションは現実的ではないと思う)

VSPが、このピュアな感じを(外見とはギャップがありながらも)うまく演じている。
これまで観た映画で、どうしてもVSPの悪役の好演が印象に残っているのだが、そんな先入観を全く感じさせない。
そう思わせることが、超一流の俳優であることの証左なのかもしれない。

相手役を演じたTrishaの存在感も大きい。
吸い込まれるような美しい瞳。
ジャーヌは、ラームとは真逆の積極的な女性なのだが、学生の時からのキャラクターと、家族を持ちの大人になったからのキャラクターの微妙なコンビネーションをうまく演じている。
女性から母、妻となり、でも『女性』であることの微妙なニュアンスを表現している、という意味で。

後半、この二人の関係がどうなるのか?
ハラハラドキドキ感が高まってくる。
エンディングがとても難しくなるだろうし、観客によってもその反応が様々なのだろうけれども、個人的には、とても効果的で納得感あるエンディングだった。
ところで、ラームは一度もジャーヌに触れていない。
最後のシーンでハグで終わるのではないかと思ったが、それすらしない。
そして、唯一の触れ合いが、最後の車の中でのギアを握り合う部分。
あのシーンがとても切なく、心にジーンとくる。

ジャーヌは、”話せないことがある”、と語っていた。
その意味は?
二~三年後の二人を想像すること、その余韻を持たせたエンディングも、この映画の魅力のひとつかもしれない。

ところで、この映画の冒頭にはラームが写真家として世界を巡るところから始まる。
それが、最後には、とても個人的な内面のところで終わっていく。
この仕立ても秀逸ではないだろうか。

この映画を惹き立てているシンプルな音楽も効果的でよい。
静かなトーンがストーリーにもフィットする。

そして、印象的なCinematography。
深夜の二人のシーンは、色合いも含めてとても印象的であった。
サムネイルになるのも理解できる。
Jun55

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