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テイクダウン TAKE DOWNのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

テイクダウン TAKE DOWN(2016年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

御曹司のカイルは贅沢三昧の果てに、飲酒運転で事故を起こし、ある島の更生施設に送られてきた。そこには、彼と同じように素行不良で連れてこられた大金持ちの若者たちが集められていた。しかし、武装した誘拐犯に施設が襲われ、少年たちは戦うことを余儀なくされる…。

孤島でサバイバルに挑む若者たちを描いたティーン向けのアクション…なのだが、貧乏な田舎モンの一庶民としては、都会育ちの金持ちのボンボンやお嬢様を決して応援などできない。

資産家の子女を預かる矯正施設での指導者のシゴキや、身代金目的で乱入する武装集団が、甘やかされて育った悪ガキどもの性根を叩き直して、人生の厳しさを教えてくれることを大いに期待していたのだが、どうにも中途半端な印象である。

何が中途半端かというと、キャラクターの描き方である。
主人公のカイルからして、冒頭から何処か寂しげに描かれており、金持ちすぎて友達も出来ず、孤独に描かれている。
かといって仕事に忙しい親も(だから資産家なのだが)子どもたちには構ってはくれない。
だから、反抗心からつい羽目を外してしまうと、同情的に描かれる。
庶民から言わせて貰えば「甘ったれんな!」である。

施設でカイルは事故を起こした時に隣に座っていたエイミーと再会するが、彼女に「私を車から助け出さないで見捨てた臆病者」と罵られる。
カイルは「意識が朦朧としていた。記憶がない…」と言い訳する。
酒と一緒でそれこそ本性ではなかろうか?
自分さえ良ければいい。
そんな憎たらしいボンボンに描いて欲しかったものでえる。

そんな彼らを叩き直すはずの施設の指導員も甘い。
もっと軍隊並みの厚生プログラムを期待したのだが、遅刻するなとか、荷物を運べとか、山を登れとか、どうも林間学校のレベル。
まぁ、あまり厳しいとスポンサーの金持ちの親からクレームが来るだろうし、大人の事情があるのだろう。
自然の厳しさと生命の尊さを学べるのは狩りのシーンくらいか。
酪農家の方々は日常茶飯事レベルだが。

若者たちも互いにぶつかりあい確執も生まれるのだが、彼らは島の自然環境の中でサバイバルを学び、少しずつ成長し始める。
都会育ちの遊び人がボーイスカウトを体験して感動したようなもの。
まぁ、彼らにとっては初体験だから、ままごとのようだが、素直になってゆく姿は許せる。

しかし、そんなある日、彼らを誘拐しに武装集団が上陸してくる。
動機は当然金なのだが、奪った金の使い道が明かされず、元軍人らしいが誘拐犯たちの背景も描かれないのは、キャラクターとして奥行きがなく残念。
施設に乗り込んできた誘拐犯たちは、施設の大人たちをあっという間に惨殺。
若者たちを人質にとるのだが、偶然カイルはその場におらず、脱出に成功する。
もっと残念なのは、所詮はガキだと甘く見てしまったことだろう。
冷酷さとテキトーさが同居する半端ぶりだ。

一方、若者たちの親たちは10億ドルという巨額の身代金を要求され、その対応に迫られる。
親たちの中には金を払いたくないと思う者もおり、意見の対立が生まれる。
果たして若者たちに助けは来るのか、そして脱出に成功したカイルは、仲間を救出できるのだろうか?という展開に。

良くも悪くもティーン向きのエンターテインメント作品。
何の力も持たない子女たちが、一致団結して悪者と戦うサバイバルは興味が惹かれるし、至極当然の流れなのだが、若者たちにはもっと苦労して欲しかったところ。
日本人令嬢が逃走中の怪我で失血死するのは完全に犬死だが、雨風や寒さに震えて愚痴も葛藤もさほどないなんて、順応が早すぎる。
食料も無いからと弓矢でアッサリ動物を仕留めるなんて、いくら何でも上達が早すぎる。
身勝手だった主人公カイルはいつの間にか皆のリーダーとなり、傭兵と互角の格闘を演じるなんて、さっきまで下っ端扱いだったのに…。
どうも全てが子どもたちにとって、「都合の良い」展開になってしまっている。

ヒロインのエイミーが腕の骨を折り、突き出た骨で敵を倒すシーンだけが「目覚めよ、本能」というキャッチコピーに相応しい。

結果的に、若者たちは誘拐犯を撃退し、迎えに来た親たちに保護される。
だが、エイミーが反目する義父は、犯人と繋がる携帯を肌身離さず孤島に持ち込み、自らの犯罪を暴かれる。
誘拐犯は、親の厄介払いを手助けして金をもらう傭兵。
真の犯人は金に汚いエイミーの義父だったというオチだ。

つまり、本作は「大人は汚い、子どもに罪は無い。そして、どんなに困難でも子どもの僕たちだってやればできるんだ!」という子どもが望む願望と展開を詰め込んだ作品と言えるだろう。
都会育ちの子どもたちには「僕たちだってその気になれば、どんな事だってできるんだ!」と勇気を与えるかもしれない。

しかし、酸いも甘いも噛み分けた大人の鑑賞に耐えうるものではない。
設定が光るだけに実にもったいない。

「若い時の苦労は買ってでもせよ」ということわざがあるが、世間知らずで生意気でしかも苦労知らずの金持ちのボンボンには、「何でこんな目に遭うんだ?」と、それまでの放蕩生活を心から反省と後悔をし、涙ながらに命乞いをし、何人かの犠牲やその後の生活に影響するほどの大怪我を負うなど、死地を潜り抜けて欲しかったものである。

たとえ、それが貧乏人のひがみだと言われようとも。
ジョン・ブアマン監督の「脱出」のティーン版を狙ったかのような作りではあるが、毒もリアリティもないのは残念である。
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