KouheiNakamura

夜は短し歩けよ乙女のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
5.0
生きていて良かった、生きていてよかった、そんな夜を探してる。


知る人ぞ知る天才アニメ監督湯浅政明、実に13年ぶりの新作劇場アニメーション!(しかも5月にはもう一本新作が公開)森見登美彦のベストセラー小説を完璧に映像化!主演は今ノリに乗っている星野源が担当!脇を固めるのは花澤香菜、中井和哉、山路和弘、神谷浩史、ロバート秋山ら豪華声優陣!さらに主題歌はアジカン!
もう観るしかない!…ですよね?

原作小説はだいぶ前に読んだ記憶がうっすらとある程度だったせいか、とても新鮮な気持ちで観ることができました。そうかそうか、こういう話だったか…と。
とにかく全編に渡って炸裂する湯浅政明監督の生命感に満ちた演出の数々に圧倒される。リアルな人間の骨格なんか無視した詭弁踊りのバカバカしさ、物を食べたらお腹が思いっきり膨らむ漫画的表現の妙、個性的な音楽、唐突だが違和感のないミュージカル展開…これらが93分間に収まっている奇跡。いや、まだまだジャンル分け不能の様々な要素が詰め込まれまくってます。
原作小説の1年間の出来事という設定をたった一夜の出来事にした大胆な改変も、この狂騒的な作品にはむしろ相応しい。
とにかく全編楽しさに満ちた青春絵巻…なんだけど。

実をいうと僕はこの映画のラストで思わず泣いてしまった。基本的にはバカバカしくも楽しい映画なのだが、主人公である「私」というキャラクターの思いが爆発するクライマックスに僕は思わずハッとさせられた。過剰で奇妙でぶっとんだ奴らばかり出てくるこの映画で、徹底的に影の薄い主人公の「私」。どうでもいいことにうじうじ悩み、一向に行動に移せない「私」。そんな「私」がようやく夜に一歩足を踏み入れたその瞬間、文字通り世界が変わる。暗く寒く長かった夜が明け、美しい朝が来る。
小さな世界が変わる様を湯浅監督持ち前のアニメーション技術で全肯定してみせるラストを見ながら、僕は泣いていた。

一歩踏み出せば、何かが変わるかもしれない。変わらないかもしれない。でも踏み出さないよりは、いい。そんな感慨にふけっていると、アジカンの主題歌が流れるエンドロールに。主題歌の名前は「荒野を歩け」。
これからもしっかりと前を見て荒野を歩こう。そんな気持ちにさせてくれたこの映画、大好きで特別な一本になりました。
KouheiNakamura

KouheiNakamura