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犬ヶ島のikustatinoのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
4.8
『犬ヶ島』
陰影が印象的な映像表現、近未来を描いた世界設定、カットインされるセルアニメ、彼の過去作には無い試みがいくつも発見できる。けれどその何れも全くウェス監督の世界観を損なわない!しかも今やロックアンセムを使わずとも物語だけで彼は人を十分感動させる。この人の進化は止まらない。

彼の作品には特徴的な記号が沢山ある。お洒落な美術やBGM、独特な台詞回し、シンメトリーな映像表現。あとビル・マーレイやエドワード・ノートン、オーウェン・ウィルソンなどウェスアンダーソン作品の常連の役者が何人もいて宛ら手塚治虫のスターシステムの様な役割を果たしているのも特徴的です。物語という虚構を極限まで作り込む彼の作品世界でこの効果は絶大だ。
けれど最も重要なのは彼が一貫して「損なわれた絆。その傷跡、喪失感からの回復」を描いてきた事だと僕は思っていて。今作でも変わらない彼の軸が感じらる事が何より嬉しいし、素晴らしい!

監督の作品は好き嫌いがきっぱり別れるし、特に上世代は彼の作品の元ネタをリアルタイムで知ってる為「お洒落映画(笑)」みたいな言い方をしてくる人が結構居る。
けれど同世代の監督達がオリジナリティと集客の間で苦しむ中独自のスタイルで着々と実績を重ねてる凄い人だし、決してお洒落だけじゃない。

一貫性のある作風に、表現方法の変化の見え始めた「ファンタスティックMr.FOX」以降を第2期とすると「ムーンライズ・キングダム」「グランド・ブダペスト・ホテル」を経て完全に昇華された表現は「犬ヶ島」で新たな境地を開拓したように思う。天才は一体次に何を見せてくれるのか…。
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