QTaka

空(カラ)の味のQTakaのレビュー・感想・評価

空(カラ)の味(2016年製作の映画)
4.0
心の内の感情の揺らぎから物語が生まれる。
主演の堀春菜さんは、そういう演技をされる俳優さんだ。
.
ホンの小さなボタンの掛け違いなのだろう。
心の揺らぎが抑えられなくなる。
与えられた環境が空気のように無になってしまう。
私を支えてくれる誰かはどこに居るのだろう。
.
抑えられない欲求は、どこからくるのだろう。
取り憑かれたように行動してしまうのは何故だろう。
私は、みんなとは違うのだろうか?
私は、ひとりなのだろうか。
狂い始めた歯車は、自らの意思とは関係なく回り始めた。
.
家族も、友だちも、直ぐそこに居るのに、何の助けにもならなかった。
それは、”普通”を象徴する存在で、一方の私は普通じゃなかった。
その存在は、私が今まで通りじゃない事を明らかにする存在でしかなかった。
はたして出口は在るのだろうか。
.
心の内の感情の揺らぎを演じる堀春菜さんと、彼女の友人役を演じた笠松七海さん。二人の演技が良かった。
日常を表す時、こういった演技がとても大きな意味を持つ。
何もない日常など無いし、物語の起点は、小さな心の揺らぎだったりするのだから、日々を描いた場面、日常の場面にこそ、小さいけど明らかな感情が必要だ。
物語の前半はこの二人の関係を中心に進む。
”普通”の日常だ。
その”普通”が少しずつ歪んで行く、崩れて行く。
そこに感情の揺らぎが見え隠れする。
憧れていた部活の顧問の先生の存在。
毎日付けていた、食べたもののカロリー。
そして節食障害。
この映画の主役は、そんな心の揺らぎを身体で、言葉で表現していた。
監督が彼女を主役に選んだ理由はこのへんだろう。
.
同質の環境や、変化の無い継続された環境は、必ずしも私を生かしてくれるとは限らない。
それは、”あたりまえ”とか”普通”という概念を強くし、一方で多様性を避ける事にもなる。
一端、その環境から外れると、それは否定でしか無くなる。
否定するのは、誰かでは無く、自らだったりもする。
私が私を認められなくなる。
支えきれなくなる。
誰か、彼女の日常とは別のところから、外からの存在が必要だった。
物語の後半、同じ病院に通院する”夜のOL”さんと出会う。
必ずしも頼りになる大人ではないかもしれないが、外の存在であることは間違いなかった。
この頼りないけど、そこに居てくれる存在が彼女には必要だった。
少し、出口が見えた時、その存在のありがたさにも気付いた時、そこに居てくれる彼女を助けたいとすら思った。
.
ひとりの少女の葛藤と成長の物語は、小さな一歩ではなく、何歩も一遍にジャンプする瞬間を描いたようにすら見えた。
.
2021年最初の一本だった。
ちょうど、元旦に見たTweetに、堀春菜さんと笠松七海さん二人一緒の新年の挨拶動画があった。
そこで、今年の一本目はこれに決めた。
この二人の映画、去年は何本か見た。
これからも楽しみな俳優だ。
今年は、どんな映画で見られるかな。
QTaka

QTaka