カツマ

ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれたのカツマのレビュー・感想・評価

3.8
ジェイク・ギレンホールという異形の表現者はたった一人で映画そのものを支配できる。実話ベースのいわゆる『良い話』を感動的な成長ドラマへと覚醒させたのは、彼の圧倒的な演技があってこそだろう。ボストンマラソンで起きた無差別テロ事件を題材に、ごく普通の人だった被害者が何度でも立ち上がる不屈の英雄へと脱皮していく物語。それだけに主人公の心の葛藤がこの映画のコアであり、繊細な精神の揺れ動きを画面上で体現したジェイクの貢献度は計り知れない。
邦題『ボストンストロング』はシンプルに英雄を指すのだろうが、原題の『ストロンガー』は英雄となった彼がどうして強くなれたかを指しているような気がしてならなかった。

仕事よりもレッドソックスの試合を優先し、待ち合わせ時間も守れないような少しダラシないごく普通の青年ジェフ・ボウマン。またも恋人のエリンに愛想を尽かされ、もう彼女にフラれるのは3度目だ。
それでもフルマラソンを走るエリンを応援しようと、ジェフはボストンマラソンのゴール地点で彼女を待っていた。
2013年4月、悲劇は起きた。ボストンマラソンのゴール地点で2発の爆弾が爆発。巻き込まれたジェフは両足を失うも何とか一命を取り留める。
そして退院後、まだ悲劇の傷も癒えないままに彼の取り巻く状況は一変していた。彼はテロに立ち向かう勇気の宣誓『ボストンストロング』の象徴として、英雄扱いされていて・・。

ジェイク演じる主人公のジェフは決して人から褒められるような人間ではなく、むしろ意志の弱い人間だった。そんな彼が英雄として突如持て囃される存在になった時の重圧と葛藤、そして悲劇の現場の残像までもがのしかかり、彼は押し潰されそうになりながらも自らの足で立ち上がる。そんないわゆる普通の人が秘めたる強さへと焦点を当てたところがこの作品の良さでもあった。
テロリストを兇弾することよりも、今悲しんでいるもの達を後押しする手段として、この映画は大きな意義がある。戦争やテロで苦しみ続ける人たちへ、強くあってほしいと願う心の叫びのような作品だった。
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