あーや

夜明け告げるルーのうたのあーやのネタバレレビュー・内容・結末

夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

湯浅さんのいつもの毒は控えめなのに、画はいつも通り猛スピードで疾走している!2Dなのにスクリーンで観ているのに、どこまでも奥行きのある街と海を観客もルーたちに引っ張られて思いっきり駆け抜けた気分でした。
「夜明け告げるルーのうた」です。
自らの制作会社、サイエンスサルで制作街道驀進中の湯浅政明監督オリジナル作品です。
家庭の事情で東京から田舎に引っ越してきた主人公、足元海。何も娯楽のない寂れた漁港町でつまらない日常を送る中、自分でアレンジした音楽をYouTubeにアップロードして暇つぶしをしている。そんな彼は自宅で見つけた街に伝わる人魚伝説の本を読んで人魚の存在に惹かれてゆく。事件は唐突に起こります。海の演奏する音楽に誘われてかわいいかわいい人魚の女の子、ルーが現れて歌い踊り出したのです。しかもルーはおしゃべりも出来るので意思疎通もバッチリ!音楽が流れ出すと魚の尾が2本足に分かれてクルクルと踊っているのですよ♡その無垢なルーとの秘密の出会いで段々と元気になってゆく海とバンド仲間の邦夫、遊歩。ルーの存在を共有している4人の絆は特別な関係だった。そんな彼らの小さな手違いでルーの存在が町中どころかネットでも全国に拡散されてしまう。秘密が破られたとき、共に生きてきたふたつの世界が破綻してゆく。横柄な大人達の振る舞いが海の神様の怒りを買い、みるみる内に海水に飲まれてしまう街。浸水に困っている人たちを不思議な力で次から次へと高台に運んで助けているのは、人間達が町おこしのために利用しようとしていたルーを始めとする人魚達だった。昔の記憶のまま人魚が恐ろしいと考えている爺ちゃん婆ちゃん達も、人魚になって今も海で生きているかつての大切な人と再会したことで敵対心が消えてゆく。人を助けるルー達を手伝うために色んな人魚達が応援に駆けつけ、疲れてきた人魚達を歌の力で励ますのは海が弾き語る「歌うたいのバラッド」。決して上手な歌ではないけれど機械を通さない海の歌声は人魚たちの心に響き彼らに力を与える。
得体の知れない者たちと人間との交流、愛、人を救う海の波。人間達が未知な存在である彼らを都合良く利用しようとしたり思い込みで勝手に恐れていても、人魚達は目の前で生きている人間たちを必死に救おうとしている。「彼は悪い人だから懲らしめる」「あの人は昔自分を捨てたから救わない」等は関係なく目の前の命を救っているのです。そして最後に人魚達は人間達と踊り出しました。かつて自分の母親を人間に食べられたと言っていたルーも、漁港の人たちと一緒に踊ります。人間たちに痛めつけられたばかりのルーの父親も他の人魚たちと一緒に、漁港の人たちや助けられた人たちと手に手を取って華麗なステップを踏んで踊るシーンでは「ああ、これは万物への愛だ・・」と幸せな気持ちになりました。冒頭で書いた通りいつもの湯浅さんの勢いのある画はそのままですが、毒はほとんどない。毒の代わりにこれまでにあまりはっきりと描かれなかった愛に溢れていた。
また、海からやってきた人魚の女の子ルー、傘との出会い、ニッコリした時の笑顔、洪水になった街など過去のジブリ作品(ポニョ、トトロ、パンダコパンダ)を彷彿させます。今まで湯浅さんの作品の中でジブリ作品へのオマージュがあまり見られなかっただけにこれは大きな発見でした。子供も楽しめるオリジナル作品を作ることになって意図的にジブリ作品の要素をふんだんに取り入れたのでしょうか。疾走する湯浅さんの画と時々甦るジブリ作品の数々。どちらも大好きな私にとって素敵な逢瀬でした。このような作品も撮れてしまうんだから湯浅さんはやはり凄い。スクリーンで観れる内に、その世界に入り込める内にもっと大人にも子供にも観てほしい。画、ストーリー、音楽の全てに興奮する。スクリーンで観なければいけない日本のアニメーション作品でした。
あーや

あーや